私たちは状況の中で活動していますが、この具体的な場での行動を制約したり方向づけたりしているものを探る科学が状況認知論や活動理論の課題となっています。その点から心理学を越えて記号論のC・パース、さらにヴェルシナー(Jaan Valsiner)の「促進的記号」という説が注目されます。
記号論は表示される数字から図、絵に関わるような視覚的に理解できるものばかりでなく、心理的なイメージも分析の対象にしています。その視点からすると、心理学と結びつくのは当然だといえます。この場合のイメージや表象の多様性は、人の認知モデルの多様性でもあり、ヴェルシナーは”時間”という概念をそこに持ち込むことで、現在から未来への繋がりを強調しています。
促進的記号とは何か新しい未来へ向けた促進的な働きかけをする記号だというのです。その意味は「ありうる未来を構築するガイドとして機能するもの」だとしています。これは自分に勇気づけするような記号、例えばパワースポット」だったり、「キットカット」のような受験効果をねらったチョコなどを指すものです。それらは特別な当人の想いや経験と結びついた記号であって、他の人には意味のないものかもしれません。だからこそ、体験や価値観のユニークさがそこにあり、なんでもない石でさえも、ある人にとっては人生の形見であったりするのです。
こうした記号の働きをヴェルシナーの促進的記号説として捉えたとすれば、それは時間の変化とともに変わる表象でもあるといえます。時間が経つにつれてポジティブ効果(ネガティブ効果)を持つようになるかどうか、それは当人の人生に意味を与え行動にも大きく影響します。
さらにビジネス心理という視点からみると、理念を文字化した「社是」は促進的記号として機能しているといえます。その他、元気を出すために聴く好みのBGMなども歌詞を越えた記号的な影響を与えます。そして、こうした文化心理学的な記号の分析は、記号の形態の多様性を人への心理的な影響からみることが出発点なっているのです。