(その5)トヨタ式のカイゼン原理

■仕事のカイゼンにおけるトヨタ式の3つのポイント

カイゼン運動で知られるトヨタでは、現場での問題について「何のため?」かを5回繰り返せといったルールで実践しています。最初の表面的な目標が、そこで不十分であることを認識させるわけです。

すると、より大きな目標(目的)が何か、その条件や土台に突き当たるわけですが、そこから表面上の目標がいかに考えていないかがわかってくるというのです。

そして、元トヨタ系の企業(デンソー)にいた佐藤政人氏は次のようなカイゼンにおける3つの目標の柱を述べています。
・①見えるものから改善する→(組織マネジメント力)
・②多能化を進める→(自己マネジメント力)
・③後工程はお客様と考える→(顧客マネジメント力)

最初の1番の「見えるものからカイゼンする」というのは、まず実践することによる「問題見える化」をしようとするものです。小さな問題がなくなればよしとするわけではなく、より大きな問題が見えてくることに意義があるというのです。

②の多能化はトヨタ生産方式でもよく知られるものです。異なる職務領域につかせることで能力のタコつぼ化を防ぐということ。人材の能力が追いついてなければカイゼンもできません。そのために、チームでの連携や全体工程を理解した考えができる意義があります。

そして、③は顧客志向の観点を全社レベルで実行していくことです。顧客満足度CSと社員満足度ESをつなぐ全体最適化の実践を強調するものです。
これら3つの「マネジメント力」は、相互に結びついてもいるものですが、日常業務の中でいかにして人を育てる環境にしていくか、そうした人と組織の両面的なカイゼンの課題に対応するものといえます。

(その4)「認知的制約」とは

■「認知的制約」が意味するもの

人や物事を理解しようとすること視覚情報の処理だけで片付く問題でないところが人の認識の難しいところです。認識はただ単に、その対象そのものとして視るという認知モデルで理解するのではなく、人とモノ(媒体)と目的の3者の相互作用を理解することだ、と捉え直してみる必要があるからです。

私たちは常に何かを理解しようとするときは、自分の既存の「認知モデル」をベースにするわけですが、そこには理解する側の目的と、理解の対象となる場や状況が深く関係しています。

人に何かを「質問」することも、質問の言語表現そのものが制約となると同時に、その意図・目的に応じて調査者側が「選択的注意」を働かしてしまい、歪んだ理解をしてしまう傾向があるのです。

また、聞かれる側もその「質問」の内容を中立的に応えているのではなく、相手が誰であるか、その状況が緊迫したものかといったことで、大きく当人の想起・記憶に影響が出てしまうわけです。

こうした歪みの認知プロセスは、常に私たちの周りの状況(場)に依存したものであり、それを「状況認知」と称しています。 実践の科学として認知科学を応用する際に、考慮すべきことは、この「状況認知」であり、そこでキーとなるのが、前述した「認知的制約」ということなのです。

(その3)能力の「評価」

■能力診断の問題点は何か

たとえば、営業力ということを個人の能力の問題としてだけでみるなら、これまでの能力観でもよいのです。顧客と接する場やチームでは、「潜在的な能力」や詳細なスキルでは、当人には何をどう改善してよいかイメージがわいてきません。
そこが、認知科学的な視点の必要なところなのです。

営業の仕事力の評価は、上司によるOJTで実際に立ち合う形で行われる場合もありますが、評価されている当人からすると普段の行動ではないはずです。

上司によく見せたいという「他者の承認」(太田薫)への動機が働いてしまうからです。ここが心理的な内面や能力を外部から“評価”するときの難しさです。これは営業だけでなく能力全般についていえることです。

そこで、一歩進んで評価の発想自体を変えてみるのです。
「評価」とは、当人が自己の行動を振り返り、より最適な行動を選び、自己の成長とつなげるためにするとみなすのです。このような自己成長の視点からの「評価」こそ、メタ認知を活かした評価観だといえます。

そして、このような視点を持てば、「評価」を自己目的にしてしまいがちな人事考課や学生の成績評価の在り方も改善することになるのではないでしょうか。

(その2)メタ認知の考え方

■仕事のカイゼンをする認識の方法とは?

仕事のカイゼンをするうえで、どのようにそのプロセスを見直したり反省したりすればよいのでしょうか?
ここでは認知科学で知られる「メタ認知」の方法を紹介しておきます。これは “知識”と“活動”の二つの面に次のように区分できます。
③ 「メタ認知的知識」=自己と他者の思考や記憶、感情の認知プロセスの知識
④ 「メタ認知的活動」=自己の認知プロセスを上から見渡す認識の仕方やコントロール

つまり、自らの知識・記憶の使い方や働きをモニターして、必要な場面で略図やメモしたりする認知プロセスをどこまで自覚するが大事な点です。認知科学者の佐伯胖先生はこのことを「略図化」と「視点の移動」の2つの概念を使い教育界などに応用してきました。

メタ認知は具体的には、略図や他者の視点を自分の中に取り入れることがポイントになります。つまり、自己の認知の枠組み(認知モデル)の限界や制約条件をいかに知るか、それを意識化することが重要だといえるでしょう。

■仕事の役割分担の意味するもの

もう少し具体的な仕事の場面でメタ認知を考えてみましょう。
企画書をプロジェクトとして協力して提案する場合なら、作成は書くこととモニターの両方を一人がします。ですが、それでは単純に個別作業になってしまうわけです。
ネットによるプロジェクトなどが増えている現在では、とくに複数の能力の違った人が強みを活かす仕事の仕方が重要となってきています。

それは役割を形式的に二人で半分に分けて書くような分担ではありません。2人のそれぞれの強みを活かすことにならないからです。それよりも、まずAさんが全体のラフ案を作成し、それを図解など得意で緻密な作業が好きなBさんがモニター(校正)しながら図を挿入していく、といった認知的な分担をすることがメタ認知を促すことにもなるのです。

こういう分担の仕方を私は「認知的コラボレーション」と呼んでいるのですが、それは各自の異なる有能性を最大化する「1+1=3」の分担方式といえます。この役割の分担方法は、状況によって入れ替わることもできます。そして、その役割の交代が固定していた自己のやり方を相手の視点(他者)から見直す機会、つまりメタ認知の活動ともなるのです。

ここで注目したいのは、自分のやっていることを別の視点から振り返る場面がある点です。別

しぐさの心理を理解するには「実践と理論の統合」がカギ!

■心理を学ぶことの難しさとは?
心理学ほど身近な学問は他にありませんが、同時に誤解と偏見に満ちている学問でもあることです。たとえば、心理カウンセラー達との研究会などに出席すると、根拠のない右脳左脳説を持ち出して心の説明に使ったり、自分の心理を他者に当てはめたりといったことが頻繁にみられます。
そして、彼らは心の専門家のように思われているようですが、自分の心の病を直すのに独学的に勉強してきたような人も実際には多いのです。むしろ、ビジネスマンのような一般人の心理分析などする能力は「?」かもしれません。これはカウンセラーという職業の難しさというだけではなく、何か根本的な問題があると考えられるのです?

■「理論と実践の統合」がしぐさの理解に不可欠
それは何かといえば、「理論と実践の統合」を理解していないことだと考えます。つまり、心理学は本では勉強していても、それを現実の中で実践していくプロセスでどう検証し、新たな問題意識をもったりして深く理解していくのか。こうした実践的な学びのスタイルを確立していないということが問題なのではないでしょうか。
しぐさの心理を理解するとは、まさに日常の行動の細かな観察を通じて、自己と他者の違いを理解し、そこに働く心の作用を知ることが不可欠です。その意味でしぐさの心理は実践と理論の統合をめざすことが求められるのだと言えます。

■理論のベースとなる「本を読む」ということの意義
ところで、あなたはどのくらい年間の本代を使っているでしょうか?
3万くらいであれば読んでいる方ですが、ある全国調査での平均では1万5千円程度でした。一方で米国での大学生は10万円程度です。そして、日本の学生はというと・・・1万円という情けない話なのです。
本を読むことはとても大切だと誰でも思っているわけですが、その情報を処理する「量」が絶対的に不足している状態なのです。もちろんスマホやPCでの情報収集はしています。しかし、その種の情報は断片であって思考を育てるにはバラバラな素材に過ぎないものといえるのではないでしょうか。
本を読まない問題性は、情報を組み立てて自分なりの仮説を作り実践の中でそれを検証していくという思考の基盤が欠けてしまうことにあります。論理的な文章を読む認知プロセスは著者との“対話”でもあり、これは認知科学が過去50年の歴史で最も深く研究されてきた内容です。本を読むことを通じて自分との“対話力”もついてくるのですが、その機会をもっていないという問題なのです。