ストーリー心理を動画に活用する方法(7)

■「ゲーミフィケーション(Gamification)」を再考する

もう一度、ここでゲーミフィケーションの考え方を振り返ってみましょう。
2011年1月に米国で「Gamification Summit」が開催され、わずか1年ほどで世界中がそのコンセプトの影響を受けることになるほど注目されるようになりました。その可能性とはどういったことでしょうか。

注意すべきことはゲーム化することを自己目的にしたものではないことです。そこにあるのは、現実の制約やコストといったことを越えて、人がエンジョイし幸せ感を得ることのできる仕組みが何かを理解することです。

とくにマーケティング分野での応用を考えるとき、「仮説検証」の視点は不可欠なものです。楽しい仕掛けを作ればよいと漠然と思いこんでしまうようなら、ゲーミフィケーションはただのゲームでしかありません。

人と人を結びつけたり感動をシェアする発想が欠くお宅世界を構築するだけになりかねないからです。ゲーミフィケーションの効果を整理すると以下に要約できます。

①仮説現実化:マーケティング的な仮説検証を前提として、ゲームを応用した「仮想の場」でのビジネス実践を試行することです。

②ネット・リアル連携化:ネットワークの価値を最大化するゲーム性を追求しながらも、一方では現実の場との連携と交流を重視していくことです。

③感性化:ゲームの持つプラス感情(ワクワク感、スリル感、熱中感)を現実のビジネスの現場やプロセスに応用して、商品の価値にプラスした感動の経験を構築することです。

仮説現実化では、試行錯誤の実践をしながらも仮説を持って何を効果検証するかを明確にしておくことが重要です。このときには、比較対象を考え、何もしないケース(通常の業務形態)と新たに試みたケース(変化した業務形態)を比べられる形にすることです。

たとえば、キャンペーンでSNSと連携させたとすれば、それをしないケースも他方で設定し、その実践の結果を比較するわけです。

また、キャンペーン前とその後での効果の比較をするには、どれだけ効果が維持されたか(効果持続性)も理解しておくことも必要です。どの時点までを対象とするかは商品・サービスの内容や顧客特性によって変わってくるからです。

ストーリー心理を動画に活用する方法(6)

■「演劇型マーケティング」への発展

ここで述べる「演劇型マーケティング」とは、商品をモノとしての価値だけでなく、『ストーリ化+ゲーム化+エディケーション化』という認知科学を応用したマーケティングのことです。

この定義は匠独自のものとしてですが、すでに用語としてはマーケティング業界でも使われてきています(例:『関係性マーケティングと演劇消費』和田充夫著)。

「演劇型マーケティング」では、人を主人公としたエピソードの展開と、実話か寓話かにかかわらず多くの人が語りうる内容の物語的な構成があることです

これは「ストーリー化」ということであり、その意味はすでにこの連載で述べてきたことですが、語りを継承してきた童謡や寓話などを思い描くとよいかもしれません。言語が元々は口頭による伝承として文字が発明されていなかった時代から、語りとしてのコトバはその集団の文化や知恵を伝える道具であったわけです。

詳細の事実や客観性といったことよりも、納得感や興味付けなどの工夫がこらされ伝承性を高めるものがストーリー性だといえます。そのために、動画であれメール文であれ、記号レベルは多様であってもよく、コンテンツとしての効果は受け取る側のストーリー性への共感や興味によって変わるということです。

ネット時代の発展は、従来の客観主義的な事実の伝達による言語コミュニケーションよりも、感情の伴った楽しさや共感に重きが置かれるようになったともいえます。

演劇的な効果は、観客を楽しませるための舞台設定から物語のシナリオ作り、そしてアクターとの演劇型の協働作業として成立するものです。そこにはエンターテイメントのプロセスが、消費行動の全てのプロセスで求められてきているビジネス環境の変化があります。

このようなことから、演劇型のネットマーケティングとは①「ストーリー化」+②「ゲーム化」+③エディケーション化によってデザインすることができ、その活用の結果としてサイト上での口コミが促進されていくものだといえるのです。

つまり、多数の消費者も参加した共創のビジネスモデルへと発展していくものとみなすのです。

ストーリー心理を動画に活用する方法(5)

■キャラクターを擬人化モデルとして活用するメリット

心理学に「交流分析」という手法があり、人の性格や行動は固定されているものではなく、相手との関係・役割の中で変わるとする理論です。この理論は心理療法でもよく使われており、現実の生活を振り返れば、誰もが納得する点で説得力があります。たとえば、筆者の例では、教員としてゼミ学生らに就職の助言などしているとき分別くさいことを平気で語っています。

ところが、自宅に帰り家内に頼まれた掃除をしていないと子ども並みの言い訳をしている自分に気づくわけです。それは相手と自己の関係性の中で“適切”な自己の性格や行動を選択しているとみなせます。
これと同じことが顧客と企業のコミュニケーションでも起きるのです。

企業が自社サイトで顧客・ファンとの交流をしようとするときに、企業ブランドのイメージにふさわしいキャラクターを作成し、それに応じた語り方(書き方)や演出を考えるわけです。

伊藤ハムのネット上のキャラクター「ハム係長」が受けたのも、キャラクターの描写的な面白さ以外に、その語り方と無関係ではありませんでした。
※参考 伊藤ハムサイト https://ham.cocosq.jp/

ハム係長はリアルの社員の1人が担当しており次のようにメッセージをサイト上でしています。
「わたくし、ハム係長がコンシェルジュとなり、ぷふぅ~っε=(公 )と自信を持って選りすぐった、”お墨付きの美味しさ”をお届けするサイト。それが「ハム係長のセレクト・キッチン」です。さあ、ほっぺたがこぼれ落ちる美味しさをご賞味あれ。」

ときどき出張に行くと連絡は途絶えるが、人の悩みごとなどは真剣に聞いてくれるといったことです。キャラクターの絵のとおり、どこかノンビリムードなユーモラスな感じを出したムードの癒し系キャラクターがいると相談しやすいというわけです。

ストーリー心理を動画に活用する方法(4)

「経験デザイン」の認知的方法(1)/「つい買ってしまう」という行動の経験デザイン

モノを買うときに、女性はあれこれ散策しながらショッピングの経験そのものを楽しみ、男性は最初に計画したモノを買ったらすぐに帰ってしまう「目的買い」がほとんどです。これは心理学でも実証されているわけですが、男性にモノを薦めるのは確かに難しいようです。

ところが、男性でもつい買ってしまった経験は誰でもあるもの。たとえば、ビジネス用の背広を買いにいくと、同じような色合いや型しかなく、決め手となるものがないというケース。こんなとき、できる店員なら、どうするでしょうか。

できる店員なら、試着室で迷うお客様の鏡に映る姿をちらりと見ながら、すぐにその服にマッチするネクタイを持ってきます。そして、「ほら、こんなネクタイをするとお顔がひきしまった感じになりますね!」と一言そえながら、ポーズを変えさせて鏡に映る自分の姿の見栄えを感じさせるのです。

たいてい、その場合のネクタイは高級なもので、それとマッチする背広と感じさせる色合いやデザインです。そのため、仮に単体では標準レベルの背広でも、ネクタイのイメージにひきづられて何かそれも高級そうに感じてしまうわけです。つまり、そのネクタイが実は購買動機の心理的な“アンカー”となるものなのです。

できる店員はこの“アンカー”による心理効果をよく知っているわけで、そのためにお客様が買いたいとする服だけを単品で売るようなことはしません。当然ながらセット販売やクロス販売といったことで売上げもアップします。

「経験デザイン」の認知的方法(2)/ 非合理的な損得の感情による「行動経済学」

そもそも、背広などは同じようなモノがほとんどで、その違いはよく目を凝らさないとわからないほどです。そのような商品を差別化しようというわけですから、メーカーも大変なわけですが、ポイントはこのような販売の現場にいる側の「お薦めの仕方」にあるのです。

まず注意したいのは、男性は細かない違いを視る能力は低いということ。残念ながら、そのようなセンスを持ち合わせないのです。この鈍感さの特性は、顔の表情の差異を判断させる心理実験でも示されており、女性に比べ25%も劣っていることがわかっています。

つまり、男性にお薦めを何かしようとするなら、外見での違いを感じさせる工夫をもっとわかりやすい形で示す必要があります。そうしないとわかりません。そこで、お客様の購買目的の服とは別のアイテムのネクタイを組み合わせて着せることで、その差異となる全体イメージを変えたというわけです。

このような心理的アンカーの実証をした認知心理学者のダニエル・カーネマンは、心理学者にも関わらずノーベル経済学賞(2002年)まで受けました。それをきっかけに、従来の合理的な経済学とは異なる「行動経済学」という学問が生まれました。

それは「人の実際の心理」をベースにした損得の科学といってよいかもしれませんが、「プロスペクト理論」ともいわれるものです。こうした損得の感情に重きをおく人の在り方には、合理的な行動とはほど遠いところがあり、とても興味深いものだといえます。

ストーリー心理を動画に活用する方法(3)

■「ストーリーで売る」ための視点

ストーリーは人にイメージと表現への欲求を創り出し、他者と共有したいという口コミ効果を生みます。この特徴に最も忠実にビジネスモデルを設計し実践しているのがディズニーランドです。ディズニーの顧客満足度が高い理由は、各種のアトラクションはもちろんですが、その一方ではショッピングもあります。楽しんだ後にお土産や自分へのご褒美として買う商品はどんなものでしょうか。いずれもディズニーキャラクターが入ったそれが一目でディズニーブランドとわかるような商品です。

そこにはディズニーがこれまで映画やコミックで描いてきた夢や冒険、ロマンといったストーリーがあります。その商品を手にしたときに感じるものは、アトラクションで得た感動とも繋がり、楽しい経験価値の記憶を強化するものです。

人がモノを買うという購買動機は、自分の欲求を満たすためですが、衣食住のような基本欲求はここでは問題ではありません。それは正義や勇気や愛といった人らしさの証しともいえる「自己実現欲求」(マズロー説)です。商品はその欲求を満たす媒体として記憶に働きかけるものだといえます。

モノとしての機能や品質は購買動機の土台としての条件であっても、心を動かすドライバー(動機付けするもの)ではないということです。そこにストーリーとしての魅力やそれにまつわる経験イメージが必要だからです。

心理学の実験でよく知られているものに、記憶の「感情一致効果」とよばれるものがあります。それは楽しいときに得た記憶は、同じような楽しい時に思い出しやすくなるというのです。クリスマスや正月の思い出など、やはり楽しい時に思い出しやすくなるわけですが、ディズニー効果はまさにそれをアトラクションやショッピングの場を通じて創り出しているのです。

【執筆:匠英一】

ストーリー心理を動画に活用する方法(2)

■    ゲーミフィケーションの意義

「ゲーミフィケーション」とはゲーム以外のビジネス分野にゲーム性を持たす仕組みを導入することです。ゲームのやり方ではないわけです。

そこで、この方法をコンテンツマーケティングに応用するには、どういったことに留意する必要があるでしょうか。
主に次の4つのポイントがあります。

1.目標の明確化

⇒目標・課題・アクションの明確化

2.現状(成果)の見える化

⇒プロセスの可視化

3.即時フィードバック

⇒報酬だけでなく他者の称賛や敵の反応等

4.報酬のステップ化

⇒達成した成果や報酬の段階化

これらの特徴は公文式の算数学習のようなものとよく似ているといえます。ドリルで課題を細かなステップに分け、それが毎日100問やれば花マルがつくといったプロセスにはゲーミフィケーションと共通のものがあるのです。

もし、仕事が苦手で課題も大きい場合でも、それを細かくステップ化して自分の達成度がわかる形で動機づけらるわけです。それは購買プロセスを構成していくうえでも、同じように考えることができます。このような手法は、個々の行動(経験)は単純でつまらないかもしれませんが、それの積み重ねによって能力が向上したり報酬が与えられたりする場合に有効でしょう。

ある書店では、POPに手書きでお薦め本の案内情報を店長自からわかりやすく表示しています。しかも店長の顔をキャラクター化したイラスト入りです。この店ではお薦めの内容がとても個性的であることや、イラストのキャラクターの面白さなどでとても好評なのです。

キャラクターはストーリ(物語)に即して主人公や敵、味方がいたりするため、それにふさわしい設定が求められます。地方のキャラター・ブームでも言われるように、そのオリジナリティが何かを意識することが、効果あるものにする条件といえます。

【執筆:匠英一】

 

ストーリー心理を動画に活用する方法(1)

■ストーリーの心理に応じたネット動画の活用

動画の利用については、オウンドメディアからダイレクトにか、YouTubeやGoogle+を媒介させてか等の最適な組み合わせを考慮する必要があります。ソーシャルメディアを媒体として活用する場合、そのメディア特性をいかに動画利用に適した形にするかが問われます。

後者の例として、ニッセンはYouTubeを使って商品説明をイメージ豊かにすることに成功しています。具体的にみると、「カスタムガジェット」や「動画アノテーション」などのYouTubeの機能は、ネット上にニッセンの“YouTube支店”を開くうえで効果的なものです。

潜在意識化は人の動機や感情の変化を知るうえで重要なことは誰しも認めるとことですが、測定するにもアンケートなどでは聞き出せないのも明らかです。

J・ザルトマン(ハーバード大学)は、購買プロセスでの無意識の効果を心理と脳科学の視点から調査し、比喩的なイメージを利用した分析法を開発しました。これは国内の大手広告企業がすでに応用していますが、今なぜそうした潜在意識が問われてきているのでしょうか。

ひとつには、客観的な購買動機の調査などが新規商品の開発に役に立たず、既存の商品の悪い点はわかっても新規に求める商品開発につながらないという問題です。何をユーザや顧客が求めているかというニーズ調査はマーケティングの基本でもありますが、多様化した商品群の使用をアンケート等の調査法では有効ではないことがわかってきたからです。

そこで、ニーズ調査の視点を潜在意識に向けることが必要となってきました。ザルトマンによれば、人が何かを理解したり動機づけたりするのは、メタファー(比喩的なもの)をベースとした無意識の働きが重要だということでした。

それを定量的に測定することは難しいのは確かですが、テキストマイニングと組み合わせたキーワードなどから新しい分析手法が開発されてきています。 ネット上の口コミ情報はその宝庫でもあり、いくつか事例をみていくことにしましよう。

【執筆:匠英一】