認知科学による動画マーケティング(5)

■未来の在りたい姿を描くストーリーの意義

時間の認識は過去から現在そして未来へという流れが一般的です。経験を思い出す場合は大方がそうした時間順にしているわけで、だからこそFacebookなどの表示(タイムライン)がネット上の交流の記録として人気があるわけです。

ところが、そこに落とし穴もあることに気付いているでしょうか。過去から順にたどっていくことが一見自然であるようにみえても、それによって人は自分の過去の経験という認知の枠にとらわれやすくなります。過去の延長として未来をみてしまうからです。

そこで、逆に未来から現在そして過去の経験を見直すことが求められるようになってきます。それがソーシャルな時代のビジネス展開に不可欠なのです。これは過去から現在ではなく、未来を在りたい姿から現在をみてイメージできるようにすることです。そして、現在の自己の行動を振り返りそこにチャンスや可能性をみるといった新しい心理カウンセリングとしても注目されているメソッド「ソリューションフォーカス(Solution Focus)」という手法で知られるものです。

この方法は心の病(鬱や統合神経失調症)を治す短期療法で効果をあげ、その後ビジネス分野での能力開発にも応用されるようになりました。そのメソッドは、国内において筆者と東大の研究者らで、エリクソンメソッドとして90年代初めから学会を創設し普及をめざしてきましたが、それはネット時代においてソーシャル性とストーリー性の2つの関係性をつなぐものとして重要だと考えています。

その理由として、「試行の場」がストーリーによって創れるということがあります。 「試行の場」とは、観光地で温泉に入る前に駅の足湯のような簡易な場を提供することや商品の試供品を試すようなことです。つまり、サービスしたい内容・価値を模擬的な形で“試行経験”をしてもらうことがポイントなのです。そうした先行的な試行経験が人の思考・記憶・感情にどういった効果をもたらすでしょうか。
それがネット上で行われる先行経験、つまり、仮想の在りたい姿を「ゲーミフィケーション」の場として描くことが重要となってくるわけです。