■状況との相互作用から行動を理解する「アフォーダンス」の見方
知覚情報は、人の身体動作(五感)による環境との相互作用によって触ったり感じたりする性質のことです。これは一般の思考とは区別される認知プロセスです。生態心理学者J・J・ギブソンはその中のある特有の性質を「アフォーダンス(価値づけられた情報)」と定義しました。
例えば、椅子の“形”によって深く座るか、浅く座るかの動作が自動化され誘導されるとみなすのです。モノが使いやすといったことは実はこのスムーズな自動思考をさせるかどうかにかかってきます。こうした性質を商品開発に結びつけて「ヒューマン・インタフェース」の研究が進んできました。
ギブソンは様々な生物の視覚を調べましたが、ある環境の特定の情報がそれらの生物の特定の行為を促すことを発見しています。たとえば、カエルは明暗に対して敏感で、頭上が一定の割合で暗くなると跳びはねます。これは天敵のカラスなどがきた際に“逃げる”というアクションを誘発しているわけです。
カエルはこのとき考えて飛ぶのではありません。行動として反応する状態にあるだけで、特定の明るさの変化情報が「飛ぶ」という逃げる行為を促すのです。そこには動物の行動が長い年月の中で、生き残るために蓄積してきた行動パターンの教訓が組込まれているといってよいでしょう。
そして、人間も同じように特定の外界の光や音といった感覚刺激の情報を受け取り、それを特定の行動パターンとして受け取めるようにできているといえます。従来の心理学では、このような外部刺激を単純な刺激反応として区分していましたが、アフォーダンスの視点はそれを環境側と動物の両者の相互作用の産物として理解した点に特徴があるのです。
人とモノを静止状態ではなく、アクションの中で捉える相互作用という発想は従来の心理学にない斬新なものだったといえるでしょう。