■キャラクターの作成法
キャラクターはおもしろければ良いと考えがちですが、自社サイトなどで使うのであっても、一貫したマーケーティング戦略の中で検討すべきです。
安易に外注プロダクションに投げてしまっては、本来のビジネスに即した活用とのギャップを生みだしてしまうからです。そこで、顧客戦略として、自社にとっての優良な顧客モデルを明確にすることが重要となります。そのようなメソッドとしては、「ペルソナ法」が有効です。
この“ペルソナ”の語源は“顔”という意味ですが、そこから性格や人柄などの意味が込められて、顧客イメージを明確にするマーケティング法として知られるようになったものです。
ネット活用でのキャラクターには、一般的なペルソナ法だけではなく、ネット戦略との兼ね合いも考慮する必要があります。
ネット戦略が、ソーシャルメディアを軸に据えるものであれば、「顧客コミュニティ」を支えていくような方向性が大事だからです。
そのためのポイントが以下の3つの特性です。
1:【顧客特性】どのような顧客(見込み客)に対して訴求するものか
2:【行動特性】どんな性格とライフスタイルを持つものか
3:【対話特性】どんな表現形式とどんな場面で“登場”するものか
たとえば、筆者が教えている大学サイトでキャラクター作りをした例でその内容を検討してみましょう。
■デジタルハリウッド大学のキャラクター案
デジタルハリウッド大学は、デジタルコンテンツの3D・アニメデザインなどのクリエータやWEBマスターを育成する単科大学です。当大学の杉山友之校長がトップページでも登場し、業界の著名人として大学の広告塔にもなっています。
このような大学にキャラクターがないのはむしろ不自然ですので、学生らに試作させたものが次の図です。便宜上、次のようなタイプに分類できます。
※実際のキャラクターの図は次のサイトページ参照
→ http://www.takumizemi.com/gaiyo001.html
●学長タイプ
●学生タイプ
学長は大学のシンボル的存在であることや、当大学では創業者である学長にはファン学生も多いため存在感のあるキャラクターとなっています。ただし、現存する人物をキャラクター化したときには、そのリアリティさゆえに、固定したイメージが作られており、その結果として幅広い層の視聴者に受け入れられるには無理があることです。
その点からすると、学生タイプのものは架空のキャラクターであることから柔軟な性格付けや行動スタイルの設定ができます。
基本としての顧客戦略からすると、優良顧客層の学生イメージをペルソナ化したうえで、そこに共感や親しみがわくようなキャラクター作りをすることが望ましいといえます。
中性タイプのものは、抽象化されたイメージですので役割や意味を明確にしておくことが求められます。大学のロゴ「DH」を使ったものが試作では多かったのですが、ロゴイメージとタイアップさせることで面白さの印象を際立たせるといった効果が見込まれます。たとえば、大学専用ツイッターのヘッド部分に使うのは有効です。
しかし、この種の中性的なキャラクターの難点は、ロゴを知らない人たち(見込み客)には不自然な形の図でしかないということです。ロゴありきを前提にしたキャラクター作りともいえますが、サイト情報の説明するようなナビゲータ役などでは信頼性を作りにくいものになります。
日本ハムのキャラクター「ハム係長」は中性タイプですが、そのハムの形の丸い顔が人的な要素を印象づけることで擬人化に成功しています。
ハム係長の例では、一人のある担当者がそのキャラクターを支えているわけですが、一般にはマーケティングの担当の複数のメンバーが交代でメッセージ作成をしたりするものがほんとんどです。それがユニークであるのはただキャラクターの表現レベルだけの問題ではなく、表現を会社としてどうメッセージするかという戦略性にあります。
ハム係長の場合は、その担当が出張した場合にはそれを正直にメッセージにも表現として入れるほど、内容のリアリティと正直さがあります。一般企業ではそこまでやるには社長以外難しいといえますが、視聴する側から感じるのは「自己開示」という心理効果です。
自己開示とは、自分の悪い点もさらけ出すような正直さを他者に対して表現に出すことです。それによって、受け手側も自己開示をするようになり相互の信頼性が高まるという効果ということです。
この自己開示を表現全般に行えるようにするには、メディアそのものも対話特性を持たせる必要がある。解説書のような文章やコンテンツ内容ではなく、聞き手に語りかける口語的な表現が有効であることはフェイスブックなどみても明らかです。
つまり、「語りかける」というのは、「意味の伝達」だけではなく「心の交流」であるからです。英語では「語りかける」ことを物語ると少し違う意味「Narrative」と呼んでいます。これは「ナレーション」の原義にもなりますが、より正確にいえば「目の前の特定の誰かに音声のコトバで語る」ということです。「Story」は物語の内容そのものや構成の仕方を意味しているので、この点は音声としての語り自体を意味するナラティブとは区別しておくほうがよいでしょう。
ナラティブなメッセージをネットで行うとすると、そこに「語り手」や「聞き手」の“顔”がみえるようにしたいわけです。企業であってもそこに親しみを作るには“顔”が必要となってくるため、ブランドイメージを強化する手段としてもキャラクターは不可欠となってきたといえるのです。
とくに商品がモノから形のないサービスへと発展してくると、顧客のサービス経験をどういう形で見込み客に理解してもらうようにするかが、口コミの効果を決めるものとなってきます。
それが経験である以上、それは企業側のコトバで表現しても信憑性に欠けるため、当の顧客のコトバ、しかもそれを見える化するような仕掛けが求められるようになってきているのです。
■これからのキャラクター利用の課題
一般に大学サイトの目的は、見込み客としての入学希望者を増やすこと、また既存客である学生に満足を与えるサービスをすることなどです。
大学広報部がこうしたサイトの企画などするわけですが、実際にはあまりキャラクターの利用はされていません。
その理由としては、キャラクターが漫画的な要素だけ注目されてきたことや、企業でも特定の商品ブランドや企業ブランドのイメージアップのような漠然とした効果しか期待されていなかったためです。そこには対話的な関係での、相互のコミュニケーションは念頭においていなかったといえます。
その結果、企業ホームページでキャラクターを使うのは、企業パンフレットの代行的な役割しか与えられず、その事業内容を「情報」として提供する程度だったからです。