認知科学による動画マーケティング(10):ゲーミフィケーションによる「報酬の自由度」

■ゲーミフィケーションによる「報酬の自由度」の方法と課題点

報償を通じて人事評価や人材開発することは今やどこの企業でも重視してきています。望ましい行動をした報償としてポイントを与え、それを人事評価の指標としていく仕組みは、「ゲーミフィケーション」として検討することができます。そうすることで、より楽しく日常の仕事の中に仕組み化することができるからです。

ただし、ゲーミフィケーションもどんなに表面上ゲームの形になっていても、管理や依存症を産み出す道具になってしまう場合もあります。
たとえば、管理の道具となる問題につて、「ゲーミフィケーション」の著者としても知られる井上明人氏(国際グローバルコミュニケーション大学)は「管理される仕事」の例として次のような場合をあげています。

『「朝起きて歯を磨くと歯ブラシについたセンサーが感知して、歯磨き粉メーカーから「よくできました!10ポイント!」と褒められる。朝食にコーンフレークを食べると、ケロッグから10ポイント。通勤にバスを使うと政府からエコポイントが支給され、それは減税の対象になる。定刻にオフィスに着いたら会社からポイント。打ち合わせ先にバスに乗らずに歩いて行くと、医療保険会社からポイント…」』

これに対して、次のように「働き方を自ら構築できる組織の支援」の視点からゲーミフィケーションを提案しています。
『「朝起きて歯を磨くと歯ブラシについたセンサーが感知する。このセンサーの情報はとりあえず集積させておくことができ、歯ブラシを使ったゲームはざっと一〇〇種類からダウンロードできる。自分でゲームをつくることも、そんなに難しくはない。

会社に行くと、今度のあたらしい人事評価の仕組みでは、子育てをがんばっている人間が、結果的に損をしてしまう可能性がある修正が加えられていたので、とりあえず自分が仕切っているプロジェクトではちょっと抵抗を試みる。子供とコミュニケーションの時間をとっていることが、良い評価につながるようにゲームの仕組みを少しカスタマイズしておく。」』

前者の例は企業の管理側の視点からポイントなど報償を仕組みにしていますが、後者は現場側のスタッフが自らの仕事の改善として取り組む仕組みにしています。一見同じようなゲーミフィケーションにみえますが、実はどんな立場と価値感に基づいて仕組み化しているかがまったく異なり、その結果としての“成果”も違ってくるのです。

■動機付けの理論からみた「コンプガチャ」による“依存症”の問題

このような依存の問題に関連して注意したいことは、「コンプガチャ」です。この意味は、Wikipediaによれば次のようになります。
「カプセルトイ(ガチャ)のようにランダムに入手できるアイテムを揃える(コンプリートする)ことで稀少アイテムを入手できるシステムのこと」

偶然性がここでキーとなるため、コンプガチャの仕組みからは自己の“有能感”を経験することができないわけです。そのため、仮にうまくコンプガチャを達成したとしても「次はさらに難しいコンプガチャに挑戦する」というチャレンジングな意識にはならないと考えられます。

報償の仕組みはゲーミフィケーションの土台でもありますが、同時に人の行動を動機づけるエンジンともいえます。同じポイントを与えるにしても、そのタイミングや重要度や影響は変わってくるのです。

認知科学的な問題として知っておきたいのは、「モチベーション3.0」を提唱したダニエル・ピンクが内発的動機を重視した点です。彼が述べる内発的動機とは次のようなことです。

最初は内発的動機として行っていた自発的な行動が、途中で金銭的な報酬などを与えられると、その内発的なものが減少し逆に外発的動機としての金銭的なものだけに依存するようになることです。

人の行動を呼び起こす動機が「外発的動機」にしかならないなら、それは行動をコントロールする側の論理でしかなく、いつか当人自身は幸せな感情を持てず、その外発的な要因に依存して行動するようになってしまうことを憂慮したわけです。

自分の行動を自分でコントロール感(自己効力感)や、社会(他者)のために自分が役に立っているという貢献感があること。そのようなポジティブな心理が、継続した幸福感を持つことができる条件であることが多くの心理調査でもわかってきています。