■「ストーリーで売る」ための視点
ストーリーは人にイメージと表現への欲求を創り出し、他者と共有したいという口コミ効果を生みます。この特徴に最も忠実にビジネスモデルを設計し実践しているのがディズニーランドです。ディズニーの顧客満足度が高い理由は、各種のアトラクションはもちろんですが、その一方ではショッピングもあります。楽しんだ後にお土産や自分へのご褒美として買う商品はどんなものでしょうか。いずれもディズニーキャラクターが入ったそれが一目でディズニーブランドとわかるような商品です。
そこにはディズニーがこれまで映画やコミックで描いてきた夢や冒険、ロマンといったストーリーがあります。その商品を手にしたときに感じるものは、アトラクションで得た感動とも繋がり、楽しい経験価値の記憶を強化するものです。
人がモノを買うという購買動機は、自分の欲求を満たすためですが、衣食住のような基本欲求はここでは問題ではありません。それは正義や勇気や愛といった人らしさの証しともいえる「自己実現欲求」(マズロー説)です。商品はその欲求を満たす媒体として記憶に働きかけるものだといえます。
モノとしての機能や品質は購買動機の土台としての条件であっても、心を動かすドライバー(動機付けするもの)ではないということです。そこにストーリーとしての魅力やそれにまつわる経験イメージが必要だからです。
心理学の実験でよく知られているものに、記憶の「感情一致効果」とよばれるものがあります。それは楽しいときに得た記憶は、同じような楽しい時に思い出しやすくなるというのです。クリスマスや正月の思い出など、やはり楽しい時に思い出しやすくなるわけですが、ディズニー効果はまさにそれをアトラクションやショッピングの場を通じて創り出しているのです。
【執筆:匠英一】