認知科学による動画マーケティング(1)

▼経験デザインの分類がなぜ必要か
 顧客がどういった消費行動をその場でしているかは、従来は「消費行動理論」という学問の中で分析されてきました。それは心理的なプロセスをAIDMAやAISASで分けるなど、さまざまな分析モデルを設定して分析するといった方法でした。
 しかし、そうした方法の問題は典型的な消費行動のタイプ分けにはわかりやすくとも、実際の経験デザインがどう変化したかなどを理解するものではありません。
AISAS等の分析法では、その場で体験される感情的な要素や知識の役割などほとんど除外されていたからです。
 人が何かを消費するということは、ただモノとしての商品の機能を消費(利用)するのではありません。これは当然のことのようですが、それほど簡単なことではなく、マーケティングの中で「経験デザイン」の内容をもっと掘り下げる必要があることを意味しています。
 ネットマーケティング論は、ネット上での消費行動を分析することはもちろんですが、むしろ、それ以上にリアルでの行動との“関係性”を捉えることが重要なのです。これはオンラインtoオフラインという「O2O」のコトバで説明できるようなことではなく、経験デザインの内容を具体的なネットとリアルの関係で分析することを要求するものです。

▼経験デザインの分類内容
 経験デザインは次の5つの軸から分類をすることができます。
1:時間軸=時間の流れとともに経験される内容
2:空間軸=空間の移動(場所変化)とともに経験される内容
3:媒体軸=媒体となる道具(メディア)の違いによって経験される内容
4:関係軸=他者や集団との関係性による経験される内容
5:目的軸=ねらいであり最終的な成果のあり方を示すもの
これらの分類は、人が経験する認知的な働き、つまり、記憶や思考・感情の変化を考慮したものです。自分が経験している内容によって、その商品をどう感じるかは変化します。山にハイキングで来たときに食べるハンバーグと、普段の家庭で食べるハンバーグでは物理的に同じものでも記憶や感情に及ぼす内容には大きな違いがあるからです。
 「時間軸」は過去から現在、未来への時間順の経験ストーリが基本パターンとなります。「エピソード記憶」として記憶される点に特徴があり、その時間の中では自分が語る体験を意味づけ、未来の行動へと活かしていく特徴があります。物語的な経験の意味づけをすることで、自分らしさや思い出としてのブランドイメージなどを作るのです。たとえば、クリスマスでプレゼントされた商品が忘れられない記憶となり、その後の消費行動にも影響を与えるのは時間軸での経験デザインとして説明できるのです。
 「空間軸」は場所がキーとなる経験といえます。フォースクエアでのネットと連携した地域ブランドの宝探し的なゲームは、その場所と不可分なエピソード記憶として記憶されることになります。その地域の持つイメージは、そこの人との関わりやユニークな物産など思い出を豊かにする要因となります。
「媒体軸」はメディアという面、それと道具という人の行動を媒介する物理的なモノがそこに在るものを仮定しているものです。たとえば、フォースクエアのゲーム的な経験はネットがそれを支援する形ですが、空間軸と媒体軸が重なる形のものと理解できます。媒体を狭く“メディア”と考えるよりも、より広義な意味での“道具”とみなすほうが経験を捉えるのに役にたつでしょう。
「関係軸」は人との関係性(Relationship)のことです。家族や友人と一緒にショッピングしているのと、一人だけでそれをしているのでは消費行動の仕方や経験の中身が変わってくると考えるものです。
2000年代前半ごろにCRM(顧客関係管理)が注目されましたが、これは顧客との関係をITを軸にしながら経営戦略として活かしていくものでした。現在は「ソーシャルCRM」というようにSNSやフェイスブック活用を軸にしたCRMが重視されてきているといえます。
「目的軸」
このような5つの軸以外にも、消費行動を制約し方向づける要因は考えることができます。ただし、これらの軸が、どのように行動や経験を変化させるかを考えるときに、左記の4つの軸はどんな場合でも影響するという点で重要だということです。