匠英一のソーシャル・メディア論(その2)

<ネットマーケティング戦略としての「ゲーミフィケーション」>

「ゲーミフィケーション」の2つの意

ゲームによって感動や喜びを創るノウハウをあらゆるビジネス領域に応用しようとするメソッドが「ゲーミフィケーション」と称して注目されるようになってきています。

消費者(顧客)にいかに新しい消費経験の価値を与えるかは今やサービス重視の戦略の柱だからです。

その新しい経験価値として、「ゲーミフィケーション」は、次の2つのことを区別しておく必要があると考えます。

  1. 一般的な消費者の行動や購買ルールをゲーム機能を用いて「ゲーム外化」するもの
  2. ゲーム行動の領域の中に消費者の行動を取り込んで「ゲーム内化」するもの

この2つは結果が同じようなゲーム的要素を持つとしても、その発生の仕方が逆方向であるものです。

前者の「ゲーム外化」とは、モノ自体の消費価値(利用によるメリット)を「ゲーム的経験」に置き換えていくものです。これは一般的なゲーミフィケーションであって、いかにして通常の消費行動にゲームの機能を取り入れてゲームらしい経験にするかが課題となります。例えれば、ランク付けやポイント制などのゲーム機能を通常の消費行動に追加していくイメージです。

たとえば、フォースクエアのような観光地でのGPS情報を利用した宝探しゲームがあります。商店街などで単に個別のブランドをアピールしても買う動機にはつながりません。そこで、「宝探し」というゲームとして各商店の商品をモバイルで探し出し、競わせることで新たな発見や競争の楽しみを与えることができるのです。

ゲーム自体は既存の宝探しというルールに沿うものですが、その場所が観光地であり、モノが商店街の商品となるならビジネス価値が発生するわけです。ただし、ここで何が顧客にとっての価値となるか、マーケティングとして仮説検証する必要があります。

同じような商品であっても、ゲームの場でより活きるような商品もあれば、無意味なものもあります。その比較や前提の検証といったことがマーケティングとして行われなければ、せっかくのフォースクエア利用もただの遊びと化してしまうのです。

フォースクエアには、ネットとリアルの場との連携が不可欠になる要素が豊富にあり、その意味では時間と空間(地理)の情報を紐付けしたビジネスモデルの宝庫ともなるものです。

「ゲーミフィケーション」の2つの意

一方、後者の「ゲーム内化」のほうはゲーム自体の中に消費行動やビジネス価値となるルールなど取り入れていくものです。出発点がゲーム在りきだということです。

パチンコはゲームそのものですが、パチンコビジネスはその土台に当たる環境です。もし、パチンコをソーシャルゲーム的なものにしネット上で始めるとどうなるでしょうか。そこには物理的な玉はないにしても、穴に入る仕掛けがあり、玉の入りによってインセンティブを与えることができます。それをポイントとして複数の提携したネットショップで商品と交換できるなら、そこには「ゲーム内化」があるといえます。

あるいは、ソーシャルゲームの場にビジネスとしての利用度を上げる仕掛けを作るなどの方法もあります。

ソーシャルゲームのブームによってもわかるように、ネットとゲームとの相乗効果は明らかです。ところが、残念なことに「コンプリートガチャ」(通称コンプガチャ)の問題が社会的な話題ともなり規制が厳しく行われるようになってきています。

確かにうまく利用すれば、劇的な効果を作り出すと期待されているだけに、戦略を間違うと壊滅的なダメージを与えることにもなるのです。

「ゲーム外化」としてのゲーミフィケーションの事例

協和発酵キリン社は「サンダーバードコーポレーション」という会社を設立し、人材募集も始めています。実際のサイト上に掲載されている「あいさつ」の文も次のようなストーリー性を貫いた表現となっています。

「 国際救助隊サンダーバードでは、世界各地で発生した事故や災害において、迅速、且つ確実な人命救助活動を行ってきました。 一方、このサンダーバード・コーポレーションでは、 国際救助の活動で培われてきた経験と実績をフルに活かし、人類の脅威である“病気”からひとりでも多くの人を救うべく、新しい医療の調査・研究をして参ります。 現在、調査・研究の中心は「個別化医療」と「抗体医薬」です。 」

協和発酵キリン社「サンダーバードコーポレーション」

(出典:http://www.kktblab.jp/

協和発酵の「サンダーバード・コーポレーション」を作ったねらいは、「抗体医薬の知識」の学習と啓蒙を促進することであり、ポイントやフォギアの形で見える化していくことでした。

「個別化医療」と「抗体医薬」の啓蒙をネット上から行うことで、会員登録してもらうという顧客コミュニティの戦略だといえます。

そこでは職位のランクアップあり、有能感が演出されるともに、デスク上にフィギュアを配置できるようにしてクリエイティブな楽しさを作り出しています。

そして、「サンダーバード」というストーリーの世界に参加しながら、ファン作りに役立てているものと考えられます。

また、別の事例として有名なのは、コカコーラ社の自販機に名前を付けてQRコードからスマートフォンに入り、そこで自販機のキャラクターが表れるという着せ替えゲームです。これはすでに本年6月時点で、全国で82万台の自販機が設置されており、32万人が利用したと報告されています。

成果を出したという点では、ドクターシーラボの事例もよく知られているものです。同社のサイトにある「すごろくゲーム」は、1位2000ポイント=2000円割引となり、その結果同社サイトへのアクセスユーザーが4倍に増えたといいます。成果として、月間売上の1割以上がすごろくゲームから入ったユーザーによるものだとしています。