匠英一のソーシャル・メディア論(その4)

<顧客コミュニティの視点からのソーシャルメディア活用>

顧客がブランドを育てる視点(1):「顧客=“ターゲット”」の視点は誤り?

顧客コミュニティの戦略を理解するうえで、重要なことは顧客自体の根本の認識の仕方です。ここで強調しておきたいことは、従来のように広告・販促の“ターゲット”という狩猟的なメタファー(比喩)による見方ではありません。

ではどういう視点かということですが、企業側は役者であり顧客側はそれを支えるファンの関係という 演劇メタファーで理解することです。

演劇では役者自身は観客であるファンの質が高ければ高いほど、自らの演技にも熱が入り質が高くなるという相互関係があることが知られています。つまり、良い役者(企業)は良いファン(顧客)が育てるというわけです。

顧客コミュニティ創りで求められることは、企業が顧客を囲う発想というよりも、「顧客がブランド(企業と商品)を育てる」というようなコミュニティにする視点と方法です。これはCRM(顧客関係性管理)の理想的な関係といえますが、実際にソーシャル型のコミュニティ戦略でそれを実現してきた事例があります。

例)イビサ、P&G、ユニクロ、丸大ハム

  *上記の企業のそれぞれの分析検討は別途論文にて参照のこと。

 

顧客がブランドを育てる視点(2):「市場シェア」でなく「顧客シェア」、さらに「マインドシェア」へ

左記のような事例からわかることは、あまり完璧な計画や企業側の戦略を大上段に構えないほうがうまくいくことです。これは家庭で子育てをするのと似ているかもしれません。親が完璧な計画を創り過ぎて子どもが依存心を持ってしまい、結果としては自立できない関係を親側が作ってしまうわけです。

マーケティングは戦略が大事なことは確かですが、それは企業側がいつも主導することではなく、相手側に任せる部分を演劇メタファーの視点から位置づけることです。

その第1は、ネット上での「顧客シェア」を向上させることです。

一般に「顧客シェア」とは、個々の顧客に占める当社の購買額や貢献度の割合を意味します。そのマーケット上での「市場シェア」に対比されるCRMの原則でもありますが、顧客自身の心の中にわが社がどれだけ重要とみなされているか、という「マインドシェア」の考えも基本は同じことです。

それは顧客の心のシェアですので金銭的なシェアやメリット性ではありません。日本語の“おもてなし”の心で対応してこそ得られる顧客側の“感謝”の心だといえます。そんなことはビジネスライクな行動とは相反するようにもみえます。しかし、「マインドシェア」はそうした心理を問題にしています。

すでに述べたイビサ社の例では、顧客からの手紙という形でマインドシェアが全社員に“見える化”されてきました。吉田会長の経営戦略はまさにマインドシェアを柱にしたものでした。

顧客がブランドを育てる視点(3):「定量化」の意義

米国のネット通販で躍進したザッポス社は、そのマインドシェアを最大にする戦略で成功したともいえます。顧客シェアの利点は、個々の顧客の動きを把握しようとする意識が従業員にも生まれることです。定量的にそれを把握することは現実には難しいわけですが、それでもザッポスは定量化にもこだわりを持ち、KPI(重要行動指標)やKGI(重要成果目標)を明確にした経営スタイルを貫いています。

80年代からブームとなってきた「顧客満足経営」と、2000年代からのCRMが日本では混同されていますが、これは似て非なるものと考えたほうがよいでしょう。

富山の薬売りや「三河屋」のストーリーも有名ですが、CRM本来の顧客戦略とは異なります。日本型の顧客戦略と区別するうえで重要なのが、この定量化という部分です。ここを明確に理解していないために、いつまでも「顧客満足経営」から出ることができない企業も多いのです。ソーシャルネットの時代において、顧客戦略は定量化の課題と不可分であることに留意することです。

顧客が満足したかどうかは、ビジネスとしては次もまた購入してくれるかどうかで決まります。この継続購入の率が顧客満足度と結びついていることは明らかですが、それを数字で表す「定量化」がCRMであり、「顧客ロイヤルティ」(“ファンド”に近い意味)の土台ともなるものです。

また、CRMは「定量化」ともう一つの「顧客見える化」が実践上のポイントなるものです。それは両方とも三河屋の実践など伝統的な日本経営にはみられません。「顧客見える化」には、顧客側の行動やニーズの見える化と企業側の社員(企業)側の業務や成果の見える化があります。

それぞれを顧客との関係から統合する視点がCRMだともいえますが、次回ではより深くソーシャルメディアによる「顧客見える化」を検討してみましょう。