匠英一のソーシャル・メディア論(その5)

<「顧客見える化」から動画活用の問題を探る>

「顧客見える化」から動画活用の問題を探る(1):失敗事例より

顧客コミュニティの戦略を理解するうえで、重要なことは顧客自体の根本の認識の仕方です。ここソニーのWEB動画利用のBRAVIA事例(下記図)では、1分間の対談式の解説が毎日シーリーズとして行われたものがあります。ここではユーモラスな場面を演出し、内容上の解説としては1人で十分でありコントとして見る人には向いているかもしれません。ただ、1分で語る中身が商品解説である以上、それを知りたい人には雑音の多い演出過多となっているようにも思えます。

テーマ自体がスマートフォンの映像に関する事なので、スマホで動画を楽しんでもらう意図があってのものですが、「いいね」の数量などみても30~50人程であり評価が低いことがわかります。

これは失敗事例になるわけですが、その原因は何でしょうか?
この点について「顧客見える化」の視点から検討してみましょう。

ソニー:「BRAVIA」の動画解説より

*ソニー:「BRAVIA」の動画解説より

(出典:http://www.sony.jp/bravia/special/index.html?

s_pid=link_tatsujin_201203_braviatopbnr

「顧客見える化」から動画活用の問題を探る(2):ストーリーの“短編化”の効果から

「ストーリー・マーケティング」については、ここでは物語的な要素をあらゆるマーケティング領域に応用していくことと定義しておきたいと思います。物語といっても演劇的なものや小説的なものまで幅広くあります。そこで、ある程度、長編か短編かを分けておくことが必要でしょう。

そうしたことから、ストーリーの「短編化」をするメリットを整理しておくと次のようになります。

  1. 各小項目の知識をステップ式に徐々にマスターできる。
  2. 基礎から応用への難易度を分割することで、心理的な負担を軽減できる。
  3. 制作コンテンツの視聴者側の評価をチェックしながら、適切なレベル調整ができる。

この3つの特徴からソニーの動画例を検討してみると、上記3については、この種の動画コンテンツが制作側でかなり事前の計画により構成されたものであるため、制作途中でその評価を組み込んでいく形はとれないでしょう。

すると1、2がそのメリットとなります。 1は冗長な解説のコント部分を除けば、学習的効果を作っている点は問題はないかもしれません。そして、2もねらいどおりユーモラスなコントで飽きさせない心理的な工夫をしているようです。

こうみると問題はなさそうです。ところが、全体として視聴してみると、何か訴求する点にリアリティがありません。そこがこの種の“よく計画”された動画解説の難しいところです。

演劇仕立てのように見ることができるのですが、途中でドラマと無関係な外人の老人が登場したり、コメンターが無言で司会者の質問を無視するなどの場面があります。それでは多数の視聴者の共感は得られないでしょう。

つまり、制作側はあれこれと演出を考えて構成上のおもしろさを追求はしているものの、見事に自己満足に終わってしまっています。ちょうと欧州の思想映画を観ているような、一般の人にはわかりにくい芸術作品のようなものです。

このような作品に仕上がった背景には、ソニーが制作を委託した会社が従来型TVのCM制作会社であるためもと思われます。確かにCMとしてみるなら普通の映像作品と受け止められるからです。

すなわち、根本問題なのは演出の仕方というよりも、制作側で顧客の“見える化”ができていないことです。TVではなくスマホを利用する側のユーザが、この動画を観るのはどういう動機や状況であるか、を理解していない点が問題なのです。

司会の女性が質問するキーワードも技術用語、とくにCMとして知ってもらいたいコトバを軸に対談がされています。

本来、ユーザの側が質問をしたいのは動画利用の場面でこんな困ったことがあるといったストーリーからです。そこが語られずに、いきなりCM側の技術のコトバでは視聴者に違和感は最初からあるのも当然ということになるでしょう。