匠英一のソーシャル・メディア論(その6)

<モノの消費から「演劇的消費」への発展に向けて>

モノによって得られる“コト”へと消費はシフト

現在の消費行動がどう変わってきているかということについて、商品というモノ自体の消費ではなく、商品を通じて得られる経験、つまり“コト”へと消費へと移ってきていることは明らかです。

それはディズニーランド的な消費の場が盛況であることからもわかることですが、そこに高付加価値という言い方では説明できない心理のマーケティング発想が必要となっている理由があります。

第一には、消費者が得られる情報・モノがどれだけ量的に多いかよりも、質的に自分にあっているかがより重要視されるようになってきました。

自分らしさを演出できるようなモノにはこだわらず財布の紐を開くのですが、そうでないモノは逆に値引きと低消費の渦に巻き込まれてしまうのです。

高付加価値の内容が、その意味では自分化であり、自分ブランド化であるわけです。そのための交流の場が必要とされるようになり、ネット上でのコミュニティが盛況になってきました。フェイスブックはその要求にマッチしたわけですが、それはビジネス全体の流れからすると必然ともいうべきプラットフォームであったのです。

そして、情報交流の内容は相互の経験談や日常の会話に近いものであったわけです。

しかし、その中でとくに注目すべき動きがあります。

それがキャラクターを活用するコミュニケーションです。従来の企業が日本ハムの「ハム係長」のようなキャラクターを使って直接個人のユーザと会話するような場はありませんでした。それは企業側としても実験であり、日本ハムの法人としては特別な扱いでそれを許可したともいえます。

「演劇的消費」の意味するもの

このような消費行動の変化からいえることは、モノ自体よりもモノの背景にある物語を消費するという意味が、よりダイナミックな相互の対話的な場や演劇的な場に置き換わってきていることです。

そこにあるのは、これまでのおもしろいストーリの中に商品を置いて宣伝するといった「物語的消費」ではなくなってきています。なぜなら、そこには「楽しい」「共感」という感情の要素と同時に、“仮想”であってもリアリティのある世界が広がってきているからです。その典型としては、スマホを使って位置情報からお店で宝探しをしながらポイントをもらうというようなフォースクウェアの事例などがあります。

それはセカンドライフで言われていたような仮想世界の話ではなく、もっと現実の場に即した「ゲーミフィキケーション」をベースにするような、ネットからリアルへの連続的な場であり、そこでの「経験価値」が問われるものだといえます。

「経験価値」というキーワードはB・シュミットが、感情と思考のレベルを6つに分類して、その中でどんなマーケティング施策が顧客に最適かを示すものでした。しかし、その方法にはまだリアリティの点では不順分なネット経験しか与えられなかったため、さほど魅力的なサービス企画につなげることができませんでした。

いわば、具体性のある仕組みや道具立てがそろわないため、まだ理念や方法論が先行していた形だったわけです。

ところが、ここ5年間ほどでのソーシャルメディアとスマホ等の発達は、いつでもどこでもリアルな演劇的消費を促進できる環境を提供するようになりました。その結果として、消費者の在り方も受け身の消費を行う対象ではなく、開発や市場創りを担っていく参画型(CGM)の「消費=生産」へと変わってきています。

「演劇的消費」の意義

演劇は様々な立体的な道具を一つの場に集約させて全体を一貫したストーリに位置付け構成されているものです。そこには人の感動を多様な道具の網目の中で創造していくという立体的なデザイン性があるといえます。

つまり、「演劇的消費」とは人の感動を立体的にデザインしていく新しい消費モデルのメタファー(比喩)なのです。

一方で問題点としては、この演劇型というメタファーでは、BtoC型の個人客向けのようなイメージが強くなります。BtoB型の法人客向けのビジネスにおいて、それが意味するものが何かを明確にしておく必要があります。

そこで、BtoBの市場においての応用を考えるうえでのポイントを示しておきましょう。

  1. 法人客であってもそこに感情的要素が入ってくることに変わりはなく、とくに信頼性や合理的な選択プロセスの統合が求められる。
  2. 自社との付き合いが複数の人間関係をベースにしながら意思決定をすること。
  3. 取引に要する期間や準備のステップが大きく複雑となること。

これらの要件は、個人客には当てはまらない独自の法人客に関する課題です。それをネットの道具立てだけで解決できるものではありません。

法人客に対するネットとリアルの関係性が、ここでも問われるようになってきているからです。

「O2O」のネット戦略へ

こうしたネットとリアルの関係の問題については、戦略的な「O2O」(Online to Offline)が重要視されてきています。これは「クリック・アンド・モルタル」というコトバで従来は言われた課題でしたが、それとどこが異なるのかを明確にしておくと次のようなことです。

  1. ネット情報からリアル店舗への誘導が基本であって、その逆のプロセスは対象とされていなかった。
  2. そのネットやリアル店舗というのも、それぞれが単体であって複数のものではなかった。
  3. リアルとの統合は情報という単位であって、そこにプロセスとしての「経験価値」をデザインするという統合の発想はなかった。
  4. これまではBtoCの消費者モデルであって、BtoBの法人客のリアルとの連携は問題にされていなかった。

すなわち、O2Oでは消費のプロセスについて経験価値を創る視点から統合し、複数の送り手と受け手がダイナミックに交流していくものなのです。

そこではこれまで以上に、自己やブランドといった「こだわり」と「らしさ」が問われるようになってきます。

そこにこそ、「演劇的消費」の意義があり、今後のeマーケティングを発展させていくテーマが存在するといえるでしょう。