匠英一のソーシャル・メディア論(その7)

初音ミクが創り出す協働創作の革新(1)/ CoCM(Co-creative Media)

初音ミクはキャラクターとしての面と、歌声合成システムとしての「VOKALOID」の二つの面があり、「育てるゲーム」に近い感情経験をユーザに与えてくれます。

リアルの世界で、この方法で大成功しているのがAKB48です。

しかし、AKB48には初音ミクのように2次創作から3次、4次といった協働創作の仕組みはありません。それはデジタルであればこそできる話だからですが、私はこのような協働創作の在り方をCoCM(Co-creative Media)と呼んでいます。それに近い見方は2005年頃からマーケティングの用語としても「CGM」(Consumer Generated Media)と称していました。

これは消費者がWEBなどのメディアを通じた口コミの仕組みを意味していました。正確にいえば、それは口コミ情報を消費者がブログやSNSを通じて創り出していく、その情報収集と活用の仕組みとして注目されたものです。

情報を消費者が創り出す動画や音楽のコンテンツは、Youtubeやニコニコ動画の場で共有されて拡大してきたものです。その中でも「初音ミク」は特別な創作物であり、これまでの共有のレベルを越えるものでした。

とくにYoutubeと異なりニコニコ動画の動画共有の体験は、そこにリアルタイムに近いようなコメント共有による同じ場を共に共有しているような体験があります。ニコニコ動画のユーザは画面に流れる他のメッセージをみながら視聴しているのです。あたかも映画体験の場で直接文字を書き込むことで、誰もが後でその書き込みした時間をたどれ、そのコトバの臨場感を感じることを通じて一緒にいる感覚が生まれるからです。

これは現在、テレビでも同じようにツイッターのコメントをオンエアしながら見せる場面もあり、目新しいものではなくなってきていますが、初音ミクの協働創作の在り方はもっとダイナミックなものです。

初音ミクが創り出す協働創作の革新(2)/「N次創作」の意義

この点について、「N次創作」という視点から濱野智史氏は、初音ミクから派生する創作の特徴を次のように整理して述べています。

  • 初音ミクと人間が歌ったものをステレオ音声の左/右チャネルで比較する「比較してみた」作品。
  • 複数の「歌ってみた」作品を合成することで、仮想の「合唱」を制作する作品。
  • 「歌ってみた」と「演奏してみた」を合成することで、仮想の「バンド演奏」を制作する作品。
  • 初音ミク関連の絵移動作品を集めて、独自の集計基準(再生数・コメント数・マイリスト追加数)に基づいて作成された「ランキング番組」。
  • ニコニコ動画上で好評な楽曲をメドレーにして、アレンジを加えた「組曲」と呼ばれる作品。
  • 作品中に登場するキャラクタたちをオールスター的に集めて制作される「MADムービー」。

(引用:月刊「情報処理」pp490~491,Vol.53 No.5 May2012より)

初音ミクが創り出す協働創作の革新(3)/共感のマーケティング革新へ

Youtube上の多くのコンテンツは、ユーザはコンテンツを共有視聴はしても、それを2次、3次と創作しながら、派生作品を創り共有することはありません。初音ミクの流行についていえば、そのオリジナルの利用許諾権をフリーに近い形で制限して実質的にはオープンにしたことに原因があります。ニコニコ動画はまさにそれを促進する仕組みとして、「タグ(Tag)」の数を10個までに制限する方法によって実現したのです。

すでに初音ミクは単なるソフトではなく、多様なクリエータが自己の強みの部分で創作ができるプラットフォームになっています。イラストで好きな絵にしたり、3Dやアニメにデザインするなど多様な「創作の連鎖」を創り出す媒体になったといえます。

要約すれば、初音ミクの協働創作の仕組みは、あたかも「連歌」と同じように、ひとつの原作の歌から次々と編集追記されて新たな作品となって生まれてくるサイクルができていること。そして、それを口コミで共感する仕掛けがマーケティングの革新を生んだと云えるでしょう。