リーダーシップの心理(2):任せる勇気編

成長マインドの新しい次元としての「任せる勇気」

「任せる勇気」は人の成長欲求を向上させる力となり、その「成長マインド」を切り開くものです。理由は次の3つ。
1:自己意識の低い次元から他者信頼を入れた他者の成長マインドを考慮できる
2:チームや組織のシステム全体の効果によって自己の弱みを強みにする
3:役割意識を与える効果によって他者は役割に応じた成長の機会を持つ

自己という枠を越えて相手の成長をねがう気持ちは貢献意識にもつながるもので、その結果として幸福感が継続することにもなります。また、チームなど組織的な場においては、メンバー間の役割を適切なものにするよう配慮するようになります。

つまり、任せる勇気があることが結局のところ自分と他者の間の壁を乗り越えていく機会と場を多く産み出していくわけです。あなたがもし相手がこんなことはできないと思っている限りは、相手もあなたに対して信頼をさほどおきません。信頼とは相互作用の産物でもあるからです。
そうした相互作用の事例をあげてみましょう。

私がコンサル会社で上司と仕事をしていたときのことです。上司はクライアントの問題解決をする役割を部下と役割分担していくことが重要なのですが、その上司は自分の背中をみて学ばせるという以上に「見せ場は自分がやりたがる」という特徴がありました。どういうことかといえば、クライアント先でどうやって自分を高くみせるかという、過大な「自己呈示」(※自分をよくみせようとする心理)の傾向があったのです。

たとえば、カードを使った問題解決技法で現場にある不満や問題性を洗い出し整理していく手法はKJ法といわれるものです。これは私が専門であり、その発明者であった川喜田次郎氏の会社のNO2であった方とわざわざ(株)認知科学研究所というコンサル会社まで創設しました。そのことは上司も知っていることですが、部下を活かすより、自分がKJ法を使って問題解決するような場面にこだわったのでした。

私が上司なら、そのKJ法を使う場面でこそ部下の強みを活かし、自分はそこで解決策としての案を別の視点からコメントするなどして議論を盛り上げるよう配慮するでしょう。そうすることで、目的であるはずの解決そのものが内容的にもしっかりしたものになるからです。

ここには上司と部下の関係の作り方が、いかに上司側の「任せる勇気」によって変わってくるか、その重要かが現れています。上司は部下のことをどうしても自分の手段とみてしまいがちです。実際にはその部下のほうが知見がある場合、それを上司側が認めるには勇気が必要になります。その勇気の心理には相手と比較される自分の劣等感が伴ってしまうからです。

私たちは他者と比較する自分が常にいることを知っています。その自分の姿はイメージとして有能か無能かを形造り、優越感とその裏返しとしての劣等感を持っています。少し自分が優れていると思えると勇気も出しやすくなることが予想できますが、そのレベルがどこまでかは人によってかなり差があるといえます。とくに私たち日本人には、少しの劣等感のレベルでも勇気がくじかれる人も多いのではないか。このように予想できるのです。

先の例の私の上司にしても普段は人のよい話好きの方であったわけですが、なぜか仕事の場では自分のほうが上であることを周囲に示さないと気がすまなかったのです。残念なことに自己の有能さが何かを当人は本当には理解できず、部下と自分の狭い比較だけの枠組みにとらわれてしまったといえます。

私たちのコンサル業界では、それぞれが自分の得意技を持ち、その場にふさわしい形で協働していくことが必要です。形式的なチーム制に限らず、ゆるやかなプロジェクトの場合などはとくにこの役割の認識が、そのプロジェクト全体の動きを左右してしまうからです。

リーダーシップの問題とも関連してきますが、誰がその場におけるリーダーであるのか。また、そのリーダーとフォロワーの関係はどの段階で変更させるべきかなどが「任せる勇気」に関係する課題となっているのです。

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