▼経験デザインを演劇型マーケティングでどう活かすか
ここでの「演劇型マーケティング」は、観客は受け身の視聴者だけではなく、その劇の中でアクターの役割も担う点に特徴があり「観客参加型演劇」といえるものです。
先の4つの軸は、次のように演劇的なコトバと関連させることができます。
時間軸⇒タイムライン
空間軸⇒舞台設定
媒体軸⇒舞台道具
関係軸⇒キャスティング
目的軸⇒劇のねらいとするもの
また、演劇では次のような用語が関係してきます。
裏方・表方=舞台進行の裏で働く者が裏方であり、舞台の役者を中心として観客の前で演じるものが表方。
裏方と表方のコミュニケーションが重要です。相互の連携が取れてこそ、観客へのパフォーマンスを最良のものにできるからです。これは企業であれば、営業と技術部門の連携のような問題に関係するものです。
WEB上を舞台とみなせば、WEBマスターは裏方であり、表方はメッセージを直接記入する広報部の担当者といったことになります。ただし、その担当が個人名ではなく、ローソンの「あきこちゃん」のようにキャラクターを利用して顔を見せたとすれば、どうでしょうか。キャラクターは企業ブランドを代表するわけではなく、そのWEB上の舞台でのアクターであり、観客(視聴者)とのコミュニケーションを容易にして親しみあるものにする“仮面”のようなものだといえます。
舞台ではどんな仮面でも付けることはできますが、そのブランドイメージやその舞台でのふさわしい役割に合わせた仮面を付ける必要があります。キャラクターとはそのような役割設定のための道具であり、コミュニケーションを方向づけ制約するものなのです。
企業サイト上の各ページは、それぞれのテーマを持つ演劇の舞台とみなすことができます。演劇型マーケティングでは、それらのWEB上のページ内でふさわしいアクターがどう振る舞うか、その観客(視聴者)がどうそれを感じ鑑賞するかが問われるわけです。
そして、そして幕引きや時間変化の中でのシーン転換があり、その各シーンの中でアクターがどう振る舞い、変化するのかが観客側の関心となります。あるシーンの場面によっては、自らその劇中に参加し、アクターとして演じることもあるようにするわけですが、以下、具体的に検討してみましょう。
投稿者: 匠英一
認知科学による動画マーケティング(1)
▼経験デザインの分類がなぜ必要か
顧客がどういった消費行動をその場でしているかは、従来は「消費行動理論」という学問の中で分析されてきました。それは心理的なプロセスをAIDMAやAISASで分けるなど、さまざまな分析モデルを設定して分析するといった方法でした。
しかし、そうした方法の問題は典型的な消費行動のタイプ分けにはわかりやすくとも、実際の経験デザインがどう変化したかなどを理解するものではありません。
AISAS等の分析法では、その場で体験される感情的な要素や知識の役割などほとんど除外されていたからです。
人が何かを消費するということは、ただモノとしての商品の機能を消費(利用)するのではありません。これは当然のことのようですが、それほど簡単なことではなく、マーケティングの中で「経験デザイン」の内容をもっと掘り下げる必要があることを意味しています。
ネットマーケティング論は、ネット上での消費行動を分析することはもちろんですが、むしろ、それ以上にリアルでの行動との“関係性”を捉えることが重要なのです。これはオンラインtoオフラインという「O2O」のコトバで説明できるようなことではなく、経験デザインの内容を具体的なネットとリアルの関係で分析することを要求するものです。
▼経験デザインの分類内容
経験デザインは次の5つの軸から分類をすることができます。
1:時間軸=時間の流れとともに経験される内容
2:空間軸=空間の移動(場所変化)とともに経験される内容
3:媒体軸=媒体となる道具(メディア)の違いによって経験される内容
4:関係軸=他者や集団との関係性による経験される内容
5:目的軸=ねらいであり最終的な成果のあり方を示すもの
これらの分類は、人が経験する認知的な働き、つまり、記憶や思考・感情の変化を考慮したものです。自分が経験している内容によって、その商品をどう感じるかは変化します。山にハイキングで来たときに食べるハンバーグと、普段の家庭で食べるハンバーグでは物理的に同じものでも記憶や感情に及ぼす内容には大きな違いがあるからです。
「時間軸」は過去から現在、未来への時間順の経験ストーリが基本パターンとなります。「エピソード記憶」として記憶される点に特徴があり、その時間の中では自分が語る体験を意味づけ、未来の行動へと活かしていく特徴があります。物語的な経験の意味づけをすることで、自分らしさや思い出としてのブランドイメージなどを作るのです。たとえば、クリスマスでプレゼントされた商品が忘れられない記憶となり、その後の消費行動にも影響を与えるのは時間軸での経験デザインとして説明できるのです。
「空間軸」は場所がキーとなる経験といえます。フォースクエアでのネットと連携した地域ブランドの宝探し的なゲームは、その場所と不可分なエピソード記憶として記憶されることになります。その地域の持つイメージは、そこの人との関わりやユニークな物産など思い出を豊かにする要因となります。
「媒体軸」はメディアという面、それと道具という人の行動を媒介する物理的なモノがそこに在るものを仮定しているものです。たとえば、フォースクエアのゲーム的な経験はネットがそれを支援する形ですが、空間軸と媒体軸が重なる形のものと理解できます。媒体を狭く“メディア”と考えるよりも、より広義な意味での“道具”とみなすほうが経験を捉えるのに役にたつでしょう。
「関係軸」は人との関係性(Relationship)のことです。家族や友人と一緒にショッピングしているのと、一人だけでそれをしているのでは消費行動の仕方や経験の中身が変わってくると考えるものです。
2000年代前半ごろにCRM(顧客関係管理)が注目されましたが、これは顧客との関係をITを軸にしながら経営戦略として活かしていくものでした。現在は「ソーシャルCRM」というようにSNSやフェイスブック活用を軸にしたCRMが重視されてきているといえます。
「目的軸」
このような5つの軸以外にも、消費行動を制約し方向づける要因は考えることができます。ただし、これらの軸が、どのように行動や経験を変化させるかを考えるときに、左記の4つの軸はどんな場合でも影響するという点で重要だということです。
ストーリー心理を動画に活用する方法(9)
■LPOの3つの最適レベル
LPO(ランディングページオプティマイゼーション)はオウンドメディアの自社サイトを有効なものにするうえで自宅の門として、その改善の優先性を常に保つようにすべきものです。ソーシャルメディアとの連携を考えるうえでは、とくに他のメディア媒体ごとの投資効果(ROI)を知るのに有効です。
LPOを実践する場合、ページを観る側のユーザがどんな期待を持ってアクセスしてくるかを理解しておくことが重要です。仮に商品ブランドを決めて買うようなケースなら、そこに当の商品が写真と解説つきであることが求められます。
そうではなく、その商品はすでに購入済みで今後新たなサービスなど計画があるかを知りたいとするなら、どうでしょうか。ロイヤル顧客であるわけですが、企業の新しい事業への方向性など語るようなページを創っておくことが求められることになります。
こうしたことからすると、LPOはページ選択のマッチングをさせるテクニックでは不十分であることがわかります。その基底にあるものは、「顧客の期待最適化」(LCO)だということでしょう。期待最適化が何かを理解していてこそ、ネット上のコンテンツをどうするかを含めたページの最適化を考えることができるからです。
では、顧客の期待最適化がわかればLPOは問題ないでしょうか。少し考えればわかるように、ネット上の最適性は今やネット上では全てを意味しないものであり、クロスメディアの中の一部になってきています。すまり、どのようなメディアを選択するかという「メディア最適化」が必要だということです。
たとえば、いくつかのメディア選択の主なパターンだけ分類すると次のようになります。
1) ネット→スマホ→雑誌・本→ショップ
2) スマホ→ネット→雑誌・本→ショップ
3) スマホ→雑誌・本→ネット→→ショップ
4) 雑誌・本→スマホ→ネット→ショップ
このようなことから、3つのレベルでのLPの構成を考えることが必要であることがわかります。底から順に次のようになるわけです。
「顧客の最適化」(LCO))→「メディアの最適化」(LMO)→「ネットページの最適化」(LPO)
■「ロングテールの法則」は正しいか?
2006年頃から注目された「ロングテールの法則」とは、ヒット商品以外の商品が、全体では半分以上となるような現象をいいます。The Long Tailと表記されるもので、これは優良な顧客(商品)の2割が全体の8割の利益を生むという「パレートの法則」が一方であり、それと対比されている点が特徴的です。
次の図の左側が販売額が多い商品であり、購買額が高い商品群を表しています。
※参照図⇒http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AD%E3%83%B3%E3%82%B0%E3%83%86%E3%83%BC%E3%83%AB
一方、図の右に行くほど販売額が少ない商品群となりますが、ちょうど恐竜の尾のようにそれが見えるため命名されたものです。「パレートの法則」を知らないと、実のところロングテールを強調する意味もわからないのです。
パレートは社会学者であり、さまざまな社会現象が平均的なモノの見方では説明できず、重みづけのある少数が多数を支配することを証明しました。たとえば、アリは社会性昆虫といわれ、全員が同じようにいつも働いているかのように思われていますが、実際に違うといわれます。全体2割だけが一所懸命に働き、巣全体の8割の生産をあげているといったことです。
2000年前後のCRMが話題になり始めたころ、マーケティング戦略として優良顧客をどうセグメントするかが問われていました。このころはまだリアル側のビジネスが対象でしたので、優良顧客2割をどうセグメントしてそれをターゲティングしていくことが最大効果をあげるCRM戦略だとされ、このパレートが使われたのです。
こうしたことからすると、ネット上だからパレートは誤りといったことではありません。ネットでもやはり、優良客の効果は全体に占める割合として高いことに変わりがないからです。
ところが、「ロングテールの法則」こそ、ネット上のビジネスに当てはまる法則だとした固定的な考え方が一部で広まりました。そのような誤解は、アマゾンがネット販売で収益を上げている多くがベストセラーではなく、店頭にも並ばない本が多くあったことから拡大したと考えられます。
その“法則”を根拠づけたものとして、ネット側のコスト面と情報提供の自動化がありました。リアルのビジネスではとてもアマゾンのように多くの本を在庫に持つことはできません。しかも、情報が限定されていた時代では見込み客に告知する機会もなかったわけです。その壁を越えるビジネス環境があってこそ成り立つのがロングテールであったのです。
ところが、アマゾンの成功モデルが強烈であったため、あたかもネットビジネスで普遍的なもののように受け止められました。後にアマゾン自身も誇張し過ぎた点を報告しており、“法則”というほどに強調するものとはなりませんでした。
そのため、現在ではこのキーワードもほとんど死語になってきていますが、問題の本質はロングテールが成立する技術環境の変化を知ることにあったことです。とくに一般的な優良性を過大評価する見方を否定し、潜在的な需要を発見することができる視点を与えたことでした。
こうしたことから、ロングテールはネット上の“法則”というよりも、次の3点を同時に満たすビジネス条件で有効な顧客戦略だと考えるべきでしょう。
1)顧客のニーズが多様であること
2)商品アイテムが多いこと
3)在庫コスト、流通コスト、販売コストが低いこと
ストーリー心理を動画に活用する方法(8)
■「コミュニケーション・デザイン」 の視点
2005年ごろから「コミュニケーション・デザイン」ということがマーケターの間の問われるようになってきます。これはブランディングや販促のような広告コミュニケーションは当然ながら、サービス企画や商品開発のプロセスまで関与する課題をコミュニケーションによって解決していくものでした。
ネット上でのブログやツイッターの役割が大きくなるにしたがって、消費者(ユーザ)とのコミュニケーションはビジネス業務のあらゆる場(空間)と機会(時間)に入り込んできます。それはソーシャルメディアの勃興期でもあり、ネットがSNSやメールという「情報の交換」の領域から「人の交流」の領域へと進化してきたといえます。
人の交流の新しい形態がビジネス全体に大きな影響を与えることになるのです。だからこそ、ネット上の重点は“情報デザイン”ではなく、「人の交流」をデザインするコミュニケーションデザインということになるわけです。
電通においてコミュニケーションデザイナーの役職を持つ岸勇希氏は、広告マーケティングを恋人へラブレターを贈る“比喩(メタファー)”として次のように説明しています。
(※以下の斜め型文章は引用)
『この比喩にはいろいろなことが内包されていますが、今の生活者について例えると、どんなに気持ちを込めたラブレターを送っても、日ごろあまりにたくさんのラブレターをもらっている彼らは、我々が思うほど、それを読んでくれないというわけです。
「それではまずいので、もっと優れた、きちんと読んでもらえるラブレターをつくろう!」と、こう考えがちなわけですが、少し冷静に考えてみると、実は最高のラブレターを書くことがゴールではないという当たり前のことに気が付くわけです。
そう、目的は射止めたい相手を魅了するということなんです。この当たり前のことに気が付くと、アプローチの方法はいっきに広がります。
別にラブレターだけが気持ちを伝える手段ではなく、歌をうたうもよし、プレゼントを贈るのもよいかもしれません。時には直接メッセージを送るのではなく、相手の友人をご飯に誘って事前に味方にしておくことが重要かもしれません。
コミュニケーション・デザインでは、メディアやメッセージといった通常の広告アプローチだけでなく、広告が効きやすくなる環境のデザインや、そもそもの課題の意義から発想をしていきます。その結果、あらゆるコミュニケーションチャンスをデザインすべき対象として考えていくわけです。』
以上のように、広告的なコンテンツやメッセージだけでなく、あらゆるプロセスで回りの環境や仕組み、人の役割なども構成し直していくわけです。ただ、これは実際にはデザイナーというよりもプロデューサに近いかもしれません。
■「キュレーション」の視点
さらに“構成し直す”というコトバは、「キュレーション」として2010年ごろからネット戦略として使われ始めました。これは博物館のような知的・文化環境の場で、その専門家が独自の視点で展示物などを構成し直す活動を意味しているものだといいます。
つまり、専門的な視点が重視され、それを一般の人達がよりわかりやすく理解し、満足を得られるようなサポート的役割を持つ内容です。
左記の考えを活かせば、ネットマーケターはどういう活動をする専門家といえるでしょうか。
それはネットマーケティングの専門家として、ユーザへオリジナルな視点からコンテンツや仕組みを最適な形に組み合わせてサービスを提供する専門家ということになります。
ネット上にあるコンテンツやリアルの世界にある多様な情報・コンテンツを特定の視点から組み替えていくということ。 そこに1+1=2ではなく、10になるような新たな創造的価値を作り出していくような専門家だというわけです。
ストーリー心理を動画に活用する方法(7)
■「ゲーミフィケーション(Gamification)」を再考する
もう一度、ここでゲーミフィケーションの考え方を振り返ってみましょう。
2011年1月に米国で「Gamification Summit」が開催され、わずか1年ほどで世界中がそのコンセプトの影響を受けることになるほど注目されるようになりました。その可能性とはどういったことでしょうか。
注意すべきことはゲーム化することを自己目的にしたものではないことです。そこにあるのは、現実の制約やコストといったことを越えて、人がエンジョイし幸せ感を得ることのできる仕組みが何かを理解することです。
とくにマーケティング分野での応用を考えるとき、「仮説検証」の視点は不可欠なものです。楽しい仕掛けを作ればよいと漠然と思いこんでしまうようなら、ゲーミフィケーションはただのゲームでしかありません。
人と人を結びつけたり感動をシェアする発想が欠くお宅世界を構築するだけになりかねないからです。ゲーミフィケーションの効果を整理すると以下に要約できます。
①仮説現実化:マーケティング的な仮説検証を前提として、ゲームを応用した「仮想の場」でのビジネス実践を試行することです。
②ネット・リアル連携化:ネットワークの価値を最大化するゲーム性を追求しながらも、一方では現実の場との連携と交流を重視していくことです。
③感性化:ゲームの持つプラス感情(ワクワク感、スリル感、熱中感)を現実のビジネスの現場やプロセスに応用して、商品の価値にプラスした感動の経験を構築することです。
仮説現実化では、試行錯誤の実践をしながらも仮説を持って何を効果検証するかを明確にしておくことが重要です。このときには、比較対象を考え、何もしないケース(通常の業務形態)と新たに試みたケース(変化した業務形態)を比べられる形にすることです。
たとえば、キャンペーンでSNSと連携させたとすれば、それをしないケースも他方で設定し、その実践の結果を比較するわけです。
また、キャンペーン前とその後での効果の比較をするには、どれだけ効果が維持されたか(効果持続性)も理解しておくことも必要です。どの時点までを対象とするかは商品・サービスの内容や顧客特性によって変わってくるからです。
ストーリー心理を動画に活用する方法(6)
■「演劇型マーケティング」への発展
ここで述べる「演劇型マーケティング」とは、商品をモノとしての価値だけでなく、『ストーリ化+ゲーム化+エディケーション化』という認知科学を応用したマーケティングのことです。
この定義は匠独自のものとしてですが、すでに用語としてはマーケティング業界でも使われてきています(例:『関係性マーケティングと演劇消費』和田充夫著)。
「演劇型マーケティング」では、人を主人公としたエピソードの展開と、実話か寓話かにかかわらず多くの人が語りうる内容の物語的な構成があることです。
これは「ストーリー化」ということであり、その意味はすでにこの連載で述べてきたことですが、語りを継承してきた童謡や寓話などを思い描くとよいかもしれません。言語が元々は口頭による伝承として文字が発明されていなかった時代から、語りとしてのコトバはその集団の文化や知恵を伝える道具であったわけです。
詳細の事実や客観性といったことよりも、納得感や興味付けなどの工夫がこらされ伝承性を高めるものがストーリー性だといえます。そのために、動画であれメール文であれ、記号レベルは多様であってもよく、コンテンツとしての効果は受け取る側のストーリー性への共感や興味によって変わるということです。
ネット時代の発展は、従来の客観主義的な事実の伝達による言語コミュニケーションよりも、感情の伴った楽しさや共感に重きが置かれるようになったともいえます。
演劇的な効果は、観客を楽しませるための舞台設定から物語のシナリオ作り、そしてアクターとの演劇型の協働作業として成立するものです。そこにはエンターテイメントのプロセスが、消費行動の全てのプロセスで求められてきているビジネス環境の変化があります。
このようなことから、演劇型のネットマーケティングとは①「ストーリー化」+②「ゲーム化」+③エディケーション化によってデザインすることができ、その活用の結果としてサイト上での口コミが促進されていくものだといえるのです。
つまり、多数の消費者も参加した共創のビジネスモデルへと発展していくものとみなすのです。
ストーリー心理を動画に活用する方法(5)
■キャラクターを擬人化モデルとして活用するメリット
心理学に「交流分析」という手法があり、人の性格や行動は固定されているものではなく、相手との関係・役割の中で変わるとする理論です。この理論は心理療法でもよく使われており、現実の生活を振り返れば、誰もが納得する点で説得力があります。たとえば、筆者の例では、教員としてゼミ学生らに就職の助言などしているとき分別くさいことを平気で語っています。
ところが、自宅に帰り家内に頼まれた掃除をしていないと子ども並みの言い訳をしている自分に気づくわけです。それは相手と自己の関係性の中で“適切”な自己の性格や行動を選択しているとみなせます。
これと同じことが顧客と企業のコミュニケーションでも起きるのです。
企業が自社サイトで顧客・ファンとの交流をしようとするときに、企業ブランドのイメージにふさわしいキャラクターを作成し、それに応じた語り方(書き方)や演出を考えるわけです。
伊藤ハムのネット上のキャラクター「ハム係長」が受けたのも、キャラクターの描写的な面白さ以外に、その語り方と無関係ではありませんでした。
※参考 伊藤ハムサイト https://ham.cocosq.jp/
ハム係長はリアルの社員の1人が担当しており次のようにメッセージをサイト上でしています。
「わたくし、ハム係長がコンシェルジュとなり、ぷふぅ~っε=(公 )と自信を持って選りすぐった、”お墨付きの美味しさ”をお届けするサイト。それが「ハム係長のセレクト・キッチン」です。さあ、ほっぺたがこぼれ落ちる美味しさをご賞味あれ。」
ときどき出張に行くと連絡は途絶えるが、人の悩みごとなどは真剣に聞いてくれるといったことです。キャラクターの絵のとおり、どこかノンビリムードなユーモラスな感じを出したムードの癒し系キャラクターがいると相談しやすいというわけです。
ストーリー心理を動画に活用する方法(4)
■「経験デザイン」の認知的方法(1)/「つい買ってしまう」という行動の経験デザイン
モノを買うときに、女性はあれこれ散策しながらショッピングの経験そのものを楽しみ、男性は最初に計画したモノを買ったらすぐに帰ってしまう「目的買い」がほとんどです。これは心理学でも実証されているわけですが、男性にモノを薦めるのは確かに難しいようです。
ところが、男性でもつい買ってしまった経験は誰でもあるもの。たとえば、ビジネス用の背広を買いにいくと、同じような色合いや型しかなく、決め手となるものがないというケース。こんなとき、できる店員なら、どうするでしょうか。
できる店員なら、試着室で迷うお客様の鏡に映る姿をちらりと見ながら、すぐにその服にマッチするネクタイを持ってきます。そして、「ほら、こんなネクタイをするとお顔がひきしまった感じになりますね!」と一言そえながら、ポーズを変えさせて鏡に映る自分の姿の見栄えを感じさせるのです。
たいてい、その場合のネクタイは高級なもので、それとマッチする背広と感じさせる色合いやデザインです。そのため、仮に単体では標準レベルの背広でも、ネクタイのイメージにひきづられて何かそれも高級そうに感じてしまうわけです。つまり、そのネクタイが実は購買動機の心理的な“アンカー”となるものなのです。
できる店員はこの“アンカー”による心理効果をよく知っているわけで、そのためにお客様が買いたいとする服だけを単品で売るようなことはしません。当然ながらセット販売やクロス販売といったことで売上げもアップします。
■「経験デザイン」の認知的方法(2)/ 非合理的な損得の感情による「行動経済学」
そもそも、背広などは同じようなモノがほとんどで、その違いはよく目を凝らさないとわからないほどです。そのような商品を差別化しようというわけですから、メーカーも大変なわけですが、ポイントはこのような販売の現場にいる側の「お薦めの仕方」にあるのです。
まず注意したいのは、男性は細かない違いを視る能力は低いということ。残念ながら、そのようなセンスを持ち合わせないのです。この鈍感さの特性は、顔の表情の差異を判断させる心理実験でも示されており、女性に比べ25%も劣っていることがわかっています。
つまり、男性にお薦めを何かしようとするなら、外見での違いを感じさせる工夫をもっとわかりやすい形で示す必要があります。そうしないとわかりません。そこで、お客様の購買目的の服とは別のアイテムのネクタイを組み合わせて着せることで、その差異となる全体イメージを変えたというわけです。
このような心理的アンカーの実証をした認知心理学者のダニエル・カーネマンは、心理学者にも関わらずノーベル経済学賞(2002年)まで受けました。それをきっかけに、従来の合理的な経済学とは異なる「行動経済学」という学問が生まれました。
それは「人の実際の心理」をベースにした損得の科学といってよいかもしれませんが、「プロスペクト理論」ともいわれるものです。こうした損得の感情に重きをおく人の在り方には、合理的な行動とはほど遠いところがあり、とても興味深いものだといえます。
ストーリー心理を動画に活用する方法(3)
■「ストーリーで売る」ための視点
ストーリーは人にイメージと表現への欲求を創り出し、他者と共有したいという口コミ効果を生みます。この特徴に最も忠実にビジネスモデルを設計し実践しているのがディズニーランドです。ディズニーの顧客満足度が高い理由は、各種のアトラクションはもちろんですが、その一方ではショッピングもあります。楽しんだ後にお土産や自分へのご褒美として買う商品はどんなものでしょうか。いずれもディズニーキャラクターが入ったそれが一目でディズニーブランドとわかるような商品です。
そこにはディズニーがこれまで映画やコミックで描いてきた夢や冒険、ロマンといったストーリーがあります。その商品を手にしたときに感じるものは、アトラクションで得た感動とも繋がり、楽しい経験価値の記憶を強化するものです。
人がモノを買うという購買動機は、自分の欲求を満たすためですが、衣食住のような基本欲求はここでは問題ではありません。それは正義や勇気や愛といった人らしさの証しともいえる「自己実現欲求」(マズロー説)です。商品はその欲求を満たす媒体として記憶に働きかけるものだといえます。
モノとしての機能や品質は購買動機の土台としての条件であっても、心を動かすドライバー(動機付けするもの)ではないということです。そこにストーリーとしての魅力やそれにまつわる経験イメージが必要だからです。
心理学の実験でよく知られているものに、記憶の「感情一致効果」とよばれるものがあります。それは楽しいときに得た記憶は、同じような楽しい時に思い出しやすくなるというのです。クリスマスや正月の思い出など、やはり楽しい時に思い出しやすくなるわけですが、ディズニー効果はまさにそれをアトラクションやショッピングの場を通じて創り出しているのです。
【執筆:匠英一】
ストーリー心理を動画に活用する方法(2)
■ ゲーミフィケーションの意義
「ゲーミフィケーション」とはゲーム以外のビジネス分野にゲーム性を持たす仕組みを導入することです。ゲームのやり方ではないわけです。
そこで、この方法をコンテンツマーケティングに応用するには、どういったことに留意する必要があるでしょうか。
主に次の4つのポイントがあります。
1.目標の明確化
⇒目標・課題・アクションの明確化
2.現状(成果)の見える化
⇒プロセスの可視化
3.即時フィードバック
⇒報酬だけでなく他者の称賛や敵の反応等
4.報酬のステップ化
⇒達成した成果や報酬の段階化
これらの特徴は公文式の算数学習のようなものとよく似ているといえます。ドリルで課題を細かなステップに分け、それが毎日100問やれば花マルがつくといったプロセスにはゲーミフィケーションと共通のものがあるのです。
もし、仕事が苦手で課題も大きい場合でも、それを細かくステップ化して自分の達成度がわかる形で動機づけらるわけです。それは購買プロセスを構成していくうえでも、同じように考えることができます。このような手法は、個々の行動(経験)は単純でつまらないかもしれませんが、それの積み重ねによって能力が向上したり報酬が与えられたりする場合に有効でしょう。
ある書店では、POPに手書きでお薦め本の案内情報を店長自からわかりやすく表示しています。しかも店長の顔をキャラクター化したイラスト入りです。この店ではお薦めの内容がとても個性的であることや、イラストのキャラクターの面白さなどでとても好評なのです。
キャラクターはストーリ(物語)に即して主人公や敵、味方がいたりするため、それにふさわしい設定が求められます。地方のキャラター・ブームでも言われるように、そのオリジナリティが何かを意識することが、効果あるものにする条件といえます。
【執筆:匠英一】