ストーリー心理を動画に活用する方法(6)

■「演劇型マーケティング」への発展

ここで述べる「演劇型マーケティング」とは、商品をモノとしての価値だけでなく、『ストーリ化+ゲーム化+エディケーション化』という認知科学を応用したマーケティングのことです。

この定義は匠独自のものとしてですが、すでに用語としてはマーケティング業界でも使われてきています(例:『関係性マーケティングと演劇消費』和田充夫著)。

「演劇型マーケティング」では、人を主人公としたエピソードの展開と、実話か寓話かにかかわらず多くの人が語りうる内容の物語的な構成があることです

これは「ストーリー化」ということであり、その意味はすでにこの連載で述べてきたことですが、語りを継承してきた童謡や寓話などを思い描くとよいかもしれません。言語が元々は口頭による伝承として文字が発明されていなかった時代から、語りとしてのコトバはその集団の文化や知恵を伝える道具であったわけです。

詳細の事実や客観性といったことよりも、納得感や興味付けなどの工夫がこらされ伝承性を高めるものがストーリー性だといえます。そのために、動画であれメール文であれ、記号レベルは多様であってもよく、コンテンツとしての効果は受け取る側のストーリー性への共感や興味によって変わるということです。

ネット時代の発展は、従来の客観主義的な事実の伝達による言語コミュニケーションよりも、感情の伴った楽しさや共感に重きが置かれるようになったともいえます。

演劇的な効果は、観客を楽しませるための舞台設定から物語のシナリオ作り、そしてアクターとの演劇型の協働作業として成立するものです。そこにはエンターテイメントのプロセスが、消費行動の全てのプロセスで求められてきているビジネス環境の変化があります。

このようなことから、演劇型のネットマーケティングとは①「ストーリー化」+②「ゲーム化」+③エディケーション化によってデザインすることができ、その活用の結果としてサイト上での口コミが促進されていくものだといえるのです。

つまり、多数の消費者も参加した共創のビジネスモデルへと発展していくものとみなすのです。

ストーリー心理を動画に活用する方法(5)

■キャラクターを擬人化モデルとして活用するメリット

心理学に「交流分析」という手法があり、人の性格や行動は固定されているものではなく、相手との関係・役割の中で変わるとする理論です。この理論は心理療法でもよく使われており、現実の生活を振り返れば、誰もが納得する点で説得力があります。たとえば、筆者の例では、教員としてゼミ学生らに就職の助言などしているとき分別くさいことを平気で語っています。

ところが、自宅に帰り家内に頼まれた掃除をしていないと子ども並みの言い訳をしている自分に気づくわけです。それは相手と自己の関係性の中で“適切”な自己の性格や行動を選択しているとみなせます。
これと同じことが顧客と企業のコミュニケーションでも起きるのです。

企業が自社サイトで顧客・ファンとの交流をしようとするときに、企業ブランドのイメージにふさわしいキャラクターを作成し、それに応じた語り方(書き方)や演出を考えるわけです。

伊藤ハムのネット上のキャラクター「ハム係長」が受けたのも、キャラクターの描写的な面白さ以外に、その語り方と無関係ではありませんでした。
※参考 伊藤ハムサイト https://ham.cocosq.jp/

ハム係長はリアルの社員の1人が担当しており次のようにメッセージをサイト上でしています。
「わたくし、ハム係長がコンシェルジュとなり、ぷふぅ~っε=(公 )と自信を持って選りすぐった、”お墨付きの美味しさ”をお届けするサイト。それが「ハム係長のセレクト・キッチン」です。さあ、ほっぺたがこぼれ落ちる美味しさをご賞味あれ。」

ときどき出張に行くと連絡は途絶えるが、人の悩みごとなどは真剣に聞いてくれるといったことです。キャラクターの絵のとおり、どこかノンビリムードなユーモラスな感じを出したムードの癒し系キャラクターがいると相談しやすいというわけです。

ストーリー心理を動画に活用する方法(4)

「経験デザイン」の認知的方法(1)/「つい買ってしまう」という行動の経験デザイン

モノを買うときに、女性はあれこれ散策しながらショッピングの経験そのものを楽しみ、男性は最初に計画したモノを買ったらすぐに帰ってしまう「目的買い」がほとんどです。これは心理学でも実証されているわけですが、男性にモノを薦めるのは確かに難しいようです。

ところが、男性でもつい買ってしまった経験は誰でもあるもの。たとえば、ビジネス用の背広を買いにいくと、同じような色合いや型しかなく、決め手となるものがないというケース。こんなとき、できる店員なら、どうするでしょうか。

できる店員なら、試着室で迷うお客様の鏡に映る姿をちらりと見ながら、すぐにその服にマッチするネクタイを持ってきます。そして、「ほら、こんなネクタイをするとお顔がひきしまった感じになりますね!」と一言そえながら、ポーズを変えさせて鏡に映る自分の姿の見栄えを感じさせるのです。

たいてい、その場合のネクタイは高級なもので、それとマッチする背広と感じさせる色合いやデザインです。そのため、仮に単体では標準レベルの背広でも、ネクタイのイメージにひきづられて何かそれも高級そうに感じてしまうわけです。つまり、そのネクタイが実は購買動機の心理的な“アンカー”となるものなのです。

できる店員はこの“アンカー”による心理効果をよく知っているわけで、そのためにお客様が買いたいとする服だけを単品で売るようなことはしません。当然ながらセット販売やクロス販売といったことで売上げもアップします。

「経験デザイン」の認知的方法(2)/ 非合理的な損得の感情による「行動経済学」

そもそも、背広などは同じようなモノがほとんどで、その違いはよく目を凝らさないとわからないほどです。そのような商品を差別化しようというわけですから、メーカーも大変なわけですが、ポイントはこのような販売の現場にいる側の「お薦めの仕方」にあるのです。

まず注意したいのは、男性は細かない違いを視る能力は低いということ。残念ながら、そのようなセンスを持ち合わせないのです。この鈍感さの特性は、顔の表情の差異を判断させる心理実験でも示されており、女性に比べ25%も劣っていることがわかっています。

つまり、男性にお薦めを何かしようとするなら、外見での違いを感じさせる工夫をもっとわかりやすい形で示す必要があります。そうしないとわかりません。そこで、お客様の購買目的の服とは別のアイテムのネクタイを組み合わせて着せることで、その差異となる全体イメージを変えたというわけです。

このような心理的アンカーの実証をした認知心理学者のダニエル・カーネマンは、心理学者にも関わらずノーベル経済学賞(2002年)まで受けました。それをきっかけに、従来の合理的な経済学とは異なる「行動経済学」という学問が生まれました。

それは「人の実際の心理」をベースにした損得の科学といってよいかもしれませんが、「プロスペクト理論」ともいわれるものです。こうした損得の感情に重きをおく人の在り方には、合理的な行動とはほど遠いところがあり、とても興味深いものだといえます。

ストーリー心理を動画に活用する方法(3)

■「ストーリーで売る」ための視点

ストーリーは人にイメージと表現への欲求を創り出し、他者と共有したいという口コミ効果を生みます。この特徴に最も忠実にビジネスモデルを設計し実践しているのがディズニーランドです。ディズニーの顧客満足度が高い理由は、各種のアトラクションはもちろんですが、その一方ではショッピングもあります。楽しんだ後にお土産や自分へのご褒美として買う商品はどんなものでしょうか。いずれもディズニーキャラクターが入ったそれが一目でディズニーブランドとわかるような商品です。

そこにはディズニーがこれまで映画やコミックで描いてきた夢や冒険、ロマンといったストーリーがあります。その商品を手にしたときに感じるものは、アトラクションで得た感動とも繋がり、楽しい経験価値の記憶を強化するものです。

人がモノを買うという購買動機は、自分の欲求を満たすためですが、衣食住のような基本欲求はここでは問題ではありません。それは正義や勇気や愛といった人らしさの証しともいえる「自己実現欲求」(マズロー説)です。商品はその欲求を満たす媒体として記憶に働きかけるものだといえます。

モノとしての機能や品質は購買動機の土台としての条件であっても、心を動かすドライバー(動機付けするもの)ではないということです。そこにストーリーとしての魅力やそれにまつわる経験イメージが必要だからです。

心理学の実験でよく知られているものに、記憶の「感情一致効果」とよばれるものがあります。それは楽しいときに得た記憶は、同じような楽しい時に思い出しやすくなるというのです。クリスマスや正月の思い出など、やはり楽しい時に思い出しやすくなるわけですが、ディズニー効果はまさにそれをアトラクションやショッピングの場を通じて創り出しているのです。

【執筆:匠英一】

ストーリー心理を動画に活用する方法(2)

■    ゲーミフィケーションの意義

「ゲーミフィケーション」とはゲーム以外のビジネス分野にゲーム性を持たす仕組みを導入することです。ゲームのやり方ではないわけです。

そこで、この方法をコンテンツマーケティングに応用するには、どういったことに留意する必要があるでしょうか。
主に次の4つのポイントがあります。

1.目標の明確化

⇒目標・課題・アクションの明確化

2.現状(成果)の見える化

⇒プロセスの可視化

3.即時フィードバック

⇒報酬だけでなく他者の称賛や敵の反応等

4.報酬のステップ化

⇒達成した成果や報酬の段階化

これらの特徴は公文式の算数学習のようなものとよく似ているといえます。ドリルで課題を細かなステップに分け、それが毎日100問やれば花マルがつくといったプロセスにはゲーミフィケーションと共通のものがあるのです。

もし、仕事が苦手で課題も大きい場合でも、それを細かくステップ化して自分の達成度がわかる形で動機づけらるわけです。それは購買プロセスを構成していくうえでも、同じように考えることができます。このような手法は、個々の行動(経験)は単純でつまらないかもしれませんが、それの積み重ねによって能力が向上したり報酬が与えられたりする場合に有効でしょう。

ある書店では、POPに手書きでお薦め本の案内情報を店長自からわかりやすく表示しています。しかも店長の顔をキャラクター化したイラスト入りです。この店ではお薦めの内容がとても個性的であることや、イラストのキャラクターの面白さなどでとても好評なのです。

キャラクターはストーリ(物語)に即して主人公や敵、味方がいたりするため、それにふさわしい設定が求められます。地方のキャラター・ブームでも言われるように、そのオリジナリティが何かを意識することが、効果あるものにする条件といえます。

【執筆:匠英一】

 

ストーリー心理を動画に活用する方法(1)

■ストーリーの心理に応じたネット動画の活用

動画の利用については、オウンドメディアからダイレクトにか、YouTubeやGoogle+を媒介させてか等の最適な組み合わせを考慮する必要があります。ソーシャルメディアを媒体として活用する場合、そのメディア特性をいかに動画利用に適した形にするかが問われます。

後者の例として、ニッセンはYouTubeを使って商品説明をイメージ豊かにすることに成功しています。具体的にみると、「カスタムガジェット」や「動画アノテーション」などのYouTubeの機能は、ネット上にニッセンの“YouTube支店”を開くうえで効果的なものです。

潜在意識化は人の動機や感情の変化を知るうえで重要なことは誰しも認めるとことですが、測定するにもアンケートなどでは聞き出せないのも明らかです。

J・ザルトマン(ハーバード大学)は、購買プロセスでの無意識の効果を心理と脳科学の視点から調査し、比喩的なイメージを利用した分析法を開発しました。これは国内の大手広告企業がすでに応用していますが、今なぜそうした潜在意識が問われてきているのでしょうか。

ひとつには、客観的な購買動機の調査などが新規商品の開発に役に立たず、既存の商品の悪い点はわかっても新規に求める商品開発につながらないという問題です。何をユーザや顧客が求めているかというニーズ調査はマーケティングの基本でもありますが、多様化した商品群の使用をアンケート等の調査法では有効ではないことがわかってきたからです。

そこで、ニーズ調査の視点を潜在意識に向けることが必要となってきました。ザルトマンによれば、人が何かを理解したり動機づけたりするのは、メタファー(比喩的なもの)をベースとした無意識の働きが重要だということでした。

それを定量的に測定することは難しいのは確かですが、テキストマイニングと組み合わせたキーワードなどから新しい分析手法が開発されてきています。 ネット上の口コミ情報はその宝庫でもあり、いくつか事例をみていくことにしましよう。

【執筆:匠英一】

<しぐさの心理を理解するためには「実践と理論の統合」がカギとなる!>

■心理を学ぶことの難しさとは?
心理学ほど身近な学問は他にありませんが、同時に誤解と偏見に満ちている学問でもあることです。たとえば、心理カウンセラー達との研究会などに出席すると、根拠のない右脳左脳説を持ち出して心の説明に使ったり、自分の心理を他者に当てはめたりといったことが頻繁にみられます。
そして、彼らは心の専門家のように思われているようですが、自分の心の病を直すのに独学的に勉強してきたような人も実際には多いのです。むしろ、ビジネスマンのような一般人の心理分析などする能力は「?」かもしれません。これはカウンセラーという職業の難しさというだけではなく、何か根本的な問題があると考えられるのです?

■「理論と実践の統合」がしぐさの理解に不可欠
それは何かといえば、「理論と実践の統合」を理解していないことだと考えます。つまり、心理学は本では勉強していても、それを現実の中で実践していくプロセスでどう検証し、新たな問題意識をもったりして深く理解していくのか。こうした実践的な学びのスタイルを確立していないということが問題なのではないでしょうか。
しぐさの心理を理解するとは、まさに日常の行動の細かな観察を通じて、自己と他者の違いを理解し、そこに働く心の作用を知ることが不可欠です。その意味でしぐさの心理は実践と理論の統合をめざすことが求められるのだと言えます。

■理論のベースとなる「本を読む」ということの意義
ところで、あなたはどのくらい年間の本代を使っているでしょうか?
3万くらいであれば読んでいる方ですが、ある全国調査での平均では1万5千円程度でした。一方で米国での大学生は10万円程度です。そして、日本の学生はというと・・・1万円という情けない話なのです。
本を読むことはとても大切だと誰でも思っているわけですが、その情報を処理する「量」が絶対的に不足している状態なのです。もちろんスマホやPCでの情報収集はしています。しかし、その種の情報は断片であって思考を育てるにはバラバラな素材に過ぎないものといえるのではないでしょうか。
本を読まない問題性は、情報を組み立てて自分なりの仮説を作り実践の中でそれを検証していくという思考の基盤が欠けてしまうことにあります。論理的な文章を読む認知プロセスは著者との“対話”でもあり、これは認知科学が過去50年の歴史で最も深く研究されてきた内容です。本を読むことを通じて自分との“対話力”もついてくるのですが、その機会をもっていないという問題なのです。

(その5)トヨタ式のカイゼン原理

■仕事のカイゼンにおけるトヨタ式の3つのポイント

カイゼン運動で知られるトヨタでは、現場での問題について「何のため?」かを5回繰り返せといったルールで実践しています。最初の表面的な目標が、そこで不十分であることを認識させるわけです。

すると、より大きな目標(目的)が何か、その条件や土台に突き当たるわけですが、そこから表面上の目標がいかに考えていないかがわかってくるというのです。

そして、元トヨタ系の企業(デンソー)にいた佐藤政人氏は次のようなカイゼンにおける3つの目標の柱を述べています。
・①見えるものから改善する→(組織マネジメント力)
・②多能化を進める→(自己マネジメント力)
・③後工程はお客様と考える→(顧客マネジメント力)

最初の1番の「見えるものからカイゼンする」というのは、まず実践することによる「問題見える化」をしようとするものです。小さな問題がなくなればよしとするわけではなく、より大きな問題が見えてくることに意義があるというのです。

②の多能化はトヨタ生産方式でもよく知られるものです。異なる職務領域につかせることで能力のタコつぼ化を防ぐということ。人材の能力が追いついてなければカイゼンもできません。そのために、チームでの連携や全体工程を理解した考えができる意義があります。

そして、③は顧客志向の観点を全社レベルで実行していくことです。顧客満足度CSと社員満足度ESをつなぐ全体最適化の実践を強調するものです。
これら3つの「マネジメント力」は、相互に結びついてもいるものですが、日常業務の中でいかにして人を育てる環境にしていくか、そうした人と組織の両面的なカイゼンの課題に対応するものといえます。

(その4)「認知的制約」とは

■「認知的制約」が意味するもの

人や物事を理解しようとすること視覚情報の処理だけで片付く問題でないところが人の認識の難しいところです。認識はただ単に、その対象そのものとして視るという認知モデルで理解するのではなく、人とモノ(媒体)と目的の3者の相互作用を理解することだ、と捉え直してみる必要があるからです。

私たちは常に何かを理解しようとするときは、自分の既存の「認知モデル」をベースにするわけですが、そこには理解する側の目的と、理解の対象となる場や状況が深く関係しています。

人に何かを「質問」することも、質問の言語表現そのものが制約となると同時に、その意図・目的に応じて調査者側が「選択的注意」を働かしてしまい、歪んだ理解をしてしまう傾向があるのです。

また、聞かれる側もその「質問」の内容を中立的に応えているのではなく、相手が誰であるか、その状況が緊迫したものかといったことで、大きく当人の想起・記憶に影響が出てしまうわけです。

こうした歪みの認知プロセスは、常に私たちの周りの状況(場)に依存したものであり、それを「状況認知」と称しています。 実践の科学として認知科学を応用する際に、考慮すべきことは、この「状況認知」であり、そこでキーとなるのが、前述した「認知的制約」ということなのです。

(その3)能力の「評価」

■能力診断の問題点は何か

たとえば、営業力ということを個人の能力の問題としてだけでみるなら、これまでの能力観でもよいのです。顧客と接する場やチームでは、「潜在的な能力」や詳細なスキルでは、当人には何をどう改善してよいかイメージがわいてきません。
そこが、認知科学的な視点の必要なところなのです。

営業の仕事力の評価は、上司によるOJTで実際に立ち合う形で行われる場合もありますが、評価されている当人からすると普段の行動ではないはずです。

上司によく見せたいという「他者の承認」(太田薫)への動機が働いてしまうからです。ここが心理的な内面や能力を外部から“評価”するときの難しさです。これは営業だけでなく能力全般についていえることです。

そこで、一歩進んで評価の発想自体を変えてみるのです。
「評価」とは、当人が自己の行動を振り返り、より最適な行動を選び、自己の成長とつなげるためにするとみなすのです。このような自己成長の視点からの「評価」こそ、メタ認知を活かした評価観だといえます。

そして、このような視点を持てば、「評価」を自己目的にしてしまいがちな人事考課や学生の成績評価の在り方も改善することになるのではないでしょうか。