認知科学による動画マーケティング(8)

■ゲーミフィケーションについての認知科学的アプローチ

ネット戦略としてゲーミフィケーションを実践していくうえで、成功条件として次の6つの“自由度”をあげることができます。
これは私(匠英一)の独自の認知科学的なアプローチによるものですが、以下がその自由度の内容です。

1:【時間の自由度】自らの都合でいつでも開始し終わることができる
2:【空間の自由度】自らの場所がどこであろうと同じようにできる
3:【報酬の自由度】自らの選択に応じて報酬(成果)が得られる
4:【測定の自由度】自らの行動の結果や反応を測定し数値化できる
5:【相手の自由度】対戦する相手が自ら望む形で多様に連携できる
6:【展開の自由度】原型を土台にして亜流の表現展開が自由にできる

「時間の自由度」は、 「即時フィードバック」と呼ばれる反応時間に関わる問題と関係しています。これはクイズなどで回答してその正解が返ってくる時間など反応した結果の時間を 言います。入力後に1秒で回答が示されるならストレスもないわけですが、10分かかるとなるとその間の待ち時間が退屈なものと感じられるからです。

また、自分の好きな時間にゲームの結果などが、すぐにわかることがモチベーションに関係してきます。これは「測定の自由度」に関連することでもあり、何かを測る方法が簡略なものとして日常化されることが条件です。

「空間の自由度」と は、場所が選べることやその制限ルールが柔軟であることを意味します。たとえば、フォースクエアはスマホのアプリでゲーム的な形で地域の店を宝探しをする ショッピングモデルです。これは一定のリアル地域をGPS機能で場所特定しながら、加盟店舗を廻る宝探し的なゲームなのです。このリアルの空間とネット空 間が位置情報によって連携している点が重要で、GPSの利用が拡大すればさらに面白い進化をしていくことが期待されます。

「報酬の自由度」とは、金銭的な報酬だけでなく、バッジやポイントなど多様なメリット性を与える仕掛けができるということです。バッジは名誉欲やベストワンの魅力を強調するものであり、ポイントは後で金銭の代わりとしてサービスが割引されたりするメリット性があります。

ただし、パチンコの玉が後で金銭に還元されるように、それは当人にとって価値ある何かと還元されるルールが前提なければ成立しないものです。セカンドライフが一時期、爆発的な人気を得たのも「リンデンドル」という仮想貨幣が利用できるようにしたからでした。

「測定の自由度」とは、測定する道具やノウハウが多様になり安価に誰でもできるようになったことです。「ランキング・レベル」や「ポイントレベル」が、常に必要な場面で“見える化”されている状態というのが「測定の自由度」の意味です。

ネッ ト上ではログデータがアクセスした際に取れるため、いつ、どこから、どのPCが、どのように、といった詳細なプロファイル情報を得ることができます。その 結果、無料の分析ツール「グーグルアナルティクス」など利用すれば、利用者(顧客)のネット上の購買行動なども容易に知ることができ、飛躍的なマーケティ ング情報の利用が進むわけです。

「相手の自由度」は、対戦者の候補を選ぶことができる自由度のことで す。その候補がネット上の友人であっても、その友人の友人といった連鎖関係から複数の候補を選んだりできるといったことです。いわゆるソーシャルゲームが ブームになっている現象をみれば、その効果がどれほどのものかわかるというものです。

ソーシャルゲームの受けている理由は、ゲームを個人内の趣味範囲にとどめるのではなく、ゲームを通じて交流していく関係の拡がりやそこで協力したりする活動の楽しさにあります。

こ のソーシャルなゲーム性の可能性ということでは、ジェーン・マクゴニガルの著書『幸せな未来は“ゲーム”が創る』 http://www.amazon.co.jp/%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%BB%E3 %83%9E%E3%82%AF%E3%82%B4%E3%83%8B%E3%82%AC%E3%83%AB/e/B00IJCWJIW が有名で、ゲー ム業界のみならず、マーケティング業界にも大きなインパクトを与えたものです。

「展開の自由度」とは、初音ミクが著作権をオープンにすることで、当初の素材としての歌姫的な3Dモデルから、多様なバージョンの模擬的ミクが生まれてきました。この成功の要因が「展開の自由度」のカギとなるものだといえます。

デジタルコンテンツの優位性は、まさにこの展開の自由度にあります。言い換えると著作権が切り貼りデータとして2次利用、3次利用まで拡大できることです。その結果として多様な顧客層にまで共有化が進み、またその顧客(利用者)が他の見込み客まで口コミをしてくれるような
サイクルが生まれるというわけです。

音楽、映像、メディアの多様な組み合わせを異なる分野の人達の協働作業によって創り出す。そのことで立体的なコンテンツサービスが展開されたきたといえるでしょう。

認知科学による動画マーケティング(7)

■キャラクターの作成法

キャラクターはおもしろければ良いと考えがちですが、自社サイトなどで使うのであっても、一貫したマーケーティング戦略の中で検討すべきです。

安易に外注プロダクションに投げてしまっては、本来のビジネスに即した活用とのギャップを生みだしてしまうからです。そこで、顧客戦略として、自社にとっての優良な顧客モデルを明確にすることが重要となります。そのようなメソッドとしては、「ペルソナ法」が有効です。

この“ペルソナ”の語源は“顔”という意味ですが、そこから性格や人柄などの意味が込められて、顧客イメージを明確にするマーケティング法として知られるようになったものです。

ネット活用でのキャラクターには、一般的なペルソナ法だけではなく、ネット戦略との兼ね合いも考慮する必要があります。
ネット戦略が、ソーシャルメディアを軸に据えるものであれば、「顧客コミュニティ」を支えていくような方向性が大事だからです。
そのためのポイントが以下の3つの特性です。

1:【顧客特性】どのような顧客(見込み客)に対して訴求するものか
2:【行動特性】どんな性格とライフスタイルを持つものか
3:【対話特性】どんな表現形式とどんな場面で“登場”するものか

たとえば、筆者が教えている大学サイトでキャラクター作りをした例でその内容を検討してみましょう。

■デジタルハリウッド大学のキャラクター案

デジタルハリウッド大学は、デジタルコンテンツの3D・アニメデザインなどのクリエータやWEBマスターを育成する単科大学です。当大学の杉山友之校長がトップページでも登場し、業界の著名人として大学の広告塔にもなっています。

このような大学にキャラクターがないのはむしろ不自然ですので、学生らに試作させたものが次の図です。便宜上、次のようなタイプに分類できます。
※実際のキャラクターの図は次のサイトページ参照
→ http://www.takumizemi.com/gaiyo001.html
●学長タイプ
●学生タイプ

学長は大学のシンボル的存在であることや、当大学では創業者である学長にはファン学生も多いため存在感のあるキャラクターとなっています。ただし、現存する人物をキャラクター化したときには、そのリアリティさゆえに、固定したイメージが作られており、その結果として幅広い層の視聴者に受け入れられるには無理があることです。

その点からすると、学生タイプのものは架空のキャラクターであることから柔軟な性格付けや行動スタイルの設定ができます。
基本としての顧客戦略からすると、優良顧客層の学生イメージをペルソナ化したうえで、そこに共感や親しみがわくようなキャラクター作りをすることが望ましいといえます。

中性タイプのものは、抽象化されたイメージですので役割や意味を明確にしておくことが求められます。大学のロゴ「DH」を使ったものが試作では多かったのですが、ロゴイメージとタイアップさせることで面白さの印象を際立たせるといった効果が見込まれます。たとえば、大学専用ツイッターのヘッド部分に使うのは有効です。

しかし、この種の中性的なキャラクターの難点は、ロゴを知らない人たち(見込み客)には不自然な形の図でしかないということです。ロゴありきを前提にしたキャラクター作りともいえますが、サイト情報の説明するようなナビゲータ役などでは信頼性を作りにくいものになります。

日本ハムのキャラクター「ハム係長」は中性タイプですが、そのハムの形の丸い顔が人的な要素を印象づけることで擬人化に成功しています。

ハム係長の例では、一人のある担当者がそのキャラクターを支えているわけですが、一般にはマーケティングの担当の複数のメンバーが交代でメッセージ作成をしたりするものがほんとんどです。それがユニークであるのはただキャラクターの表現レベルだけの問題ではなく、表現を会社としてどうメッセージするかという戦略性にあります。

ハム係長の場合は、その担当が出張した場合にはそれを正直にメッセージにも表現として入れるほど、内容のリアリティと正直さがあります。一般企業ではそこまでやるには社長以外難しいといえますが、視聴する側から感じるのは「自己開示」という心理効果です。

自己開示とは、自分の悪い点もさらけ出すような正直さを他者に対して表現に出すことです。それによって、受け手側も自己開示をするようになり相互の信頼性が高まるという効果ということです。

この自己開示を表現全般に行えるようにするには、メディアそのものも対話特性を持たせる必要がある。解説書のような文章やコンテンツ内容ではなく、聞き手に語りかける口語的な表現が有効であることはフェイスブックなどみても明らかです。

つまり、「語りかける」というのは、「意味の伝達」だけではなく「心の交流」であるからです。英語では「語りかける」ことを物語ると少し違う意味「Narrative」と呼んでいます。これは「ナレーション」の原義にもなりますが、より正確にいえば「目の前の特定の誰かに音声のコトバで語る」ということです。「Story」は物語の内容そのものや構成の仕方を意味しているので、この点は音声としての語り自体を意味するナラティブとは区別しておくほうがよいでしょう。

ナラティブなメッセージをネットで行うとすると、そこに「語り手」や「聞き手」の“顔”がみえるようにしたいわけです。企業であってもそこに親しみを作るには“顔”が必要となってくるため、ブランドイメージを強化する手段としてもキャラクターは不可欠となってきたといえるのです。

とくに商品がモノから形のないサービスへと発展してくると、顧客のサービス経験をどういう形で見込み客に理解してもらうようにするかが、口コミの効果を決めるものとなってきます。

それが経験である以上、それは企業側のコトバで表現しても信憑性に欠けるため、当の顧客のコトバ、しかもそれを見える化するような仕掛けが求められるようになってきているのです。

■これからのキャラクター利用の課題

一般に大学サイトの目的は、見込み客としての入学希望者を増やすこと、また既存客である学生に満足を与えるサービスをすることなどです。

大学広報部がこうしたサイトの企画などするわけですが、実際にはあまりキャラクターの利用はされていません。

その理由としては、キャラクターが漫画的な要素だけ注目されてきたことや、企業でも特定の商品ブランドや企業ブランドのイメージアップのような漠然とした効果しか期待されていなかったためです。そこには対話的な関係での、相互のコミュニケーションは念頭においていなかったといえます。

その結果、企業ホームページでキャラクターを使うのは、企業パンフレットの代行的な役割しか与えられず、その事業内容を「情報」として提供する程度だったからです。

ストーリー心理を動画に活用する方法(10)

■語りとしての“時”を軸とするストーリー性の特徴
「タイムライン化」

ツイッターやストリーミング式の動画利用は時系列でのリアルタイムで表示されるため、「タイムライン化」のツー ルといえます。基本的には最初から計画していたストーリーになるかどうかは未知数の部分も多くなるため、素材としての面白さやハプニング性を活かした内容 を集めていくことが重要となります。

ブログも一般的には時系列での表示ですが、内容を整理したり分類して書いている場合もあるので「カテゴリー化」の面もあります。また、質問を整理した形で表示するFAQの方式は「カテゴリー化」が基本となります。

過去にすでにインタビュー記事などをタイムライン的な形で記載していた雑誌を、後からテーマ別に編集し直して別のネット上に掲載する場合はカテゴリー化へと移したわけです。

ネットでの取材記事やブログ情報などは、初期の段階では素材としてできるだけ多く集めておくことです。あまり内容を最初から分類しようとせずに、タイムライン式にストックしておくのです。

そして、後で戦略性やコンセプトに応じたカテゴリー化をして整理しておきます。コンテンツとしての魅力はその編集作業の質に左右されるため、素材と してのストックをこまめにしておくことです。それと同時に、分類基準なりのカテゴリーの設定もタイミングよくすることが大事でしょう。

つまり、素材情報はタイムライン化のツールで質よりも量を多くストックすることを心がけるわけです。その一方、説得情報はカテゴリー化のツールで質を重視し、編集によって内容を分類していくことがポイントでしょう。

女性はなぜ”しぐさ”の理解が得意なのか?

■しぐさや表情を理解するのは女性が得意なのはなぜ?

浮気を見破ることにかけては男性より女性がずっと優れています。例えば、男性では目をそらすのに、女性は嘘をついていても相手の目をじっとみつめながら話しができます。また、写真を200枚ほど見せて本当に悲しい表情かどうかを判断させる実験では、男性は70%程度なのに女性は90%当てることがわかっています。

つまり、相手の表情から感情を読み取る「表情認知」でも優れているのです。この表情認知については、悲しい表情などの表情を写真に撮り、それを200枚程を男女に見せて正確に判定できるか実験した結果、女性は男性より20%も優れていたというのです。感情このような理解のスキルを「ソーシャル・スキル」と云いますが、女性は明らかに男性より優れているわけですね。

この面で、女性が優れている原因は、性的な脳の役割・機能のレベルの差があります。女性は右脳と左脳を橋渡しする「脳梁」の太さの比が男性より大きいことがひとつの理由です。つまり、左右の脳のかけ橋となるものなので、それの交流が活発ということになり情報交換がしやすいことを意味するからです。

これによりバランスよく物事を並列処理することができます。男性はTVを視るなら他のことを同時にはできませんが、女性は視る一方で子どもをあやしたり友人とおしゃべりしたりできます。この認識の「並列分散処理」の仕方こそ、直感的な働きでしぐさや相手の表情の変化を捉える能力があるのです。

「並列分散処理」というコトバは、脳科学でも知られるものです。 これはちょうど、ニューロン【脳神経細胞)が、それぞれ単体では極小の記憶単位でしかないのですが、何億とネット網として相互作用をすることで高度な思考・感情を産み出すという仕組みのことです。

人の能力とは、ニューロンによって制約されているので、当然その相互作用の力をフルに使って直感を働かせます。そして、しぐさのようなわずかな行動の変化情報の意味を状況の中で読みとるわけです。

その処理の仕方は1+1=2のような計算ではなく、1+1=3~100のような結果を生み出すものです。そこに能力を固定的にみてはならない人間の可能性のすばらしさがあります。
といっても、明日のテストで何点取れるか心配している学生など、人の知識の限界を常に感じる現実があるようにも感じます。そのギャップはどこから来るのでしょうか?

実はテストによって評価されている側が、その評価を固定的に受け入れてしまう自己の「認識」にあります。「能力」をどうみるかという認識の枠組み=スキーマが問題なのです。
とくに、暗記的要素をメインの領域としたテストによる弊害は大きく、それこそが人の能力を低い状態で認識させる「認知的制約」になっているといえるのではないでしょうか。

行動を制約して方向づける「アフォーダンス」とは?

■状況との相互作用から行動を理解する「アフォーダンス」の見方

知覚情報は、人の身体動作(五感)による環境との相互作用によって触ったり感じたりする性質のことです。これは一般の思考とは区別される認知プロセスです。生態心理学者J・J・ギブソンはその中のある特有の性質を「アフォーダンス(価値づけられた情報)と定義しました。

例えば、椅子の“形”によって深く座るか、浅く座るかの動作が自動化され誘導されるとみなすのです。モノが使いやすといったことは実はこのスムーズな自動思考をさせるかどうかにかかってきます。こうした性質を商品開発に結びつけて「ヒューマン・インタフェース」の研究が進んできました。

ギブソンは様々な生物の視覚を調べましたが、ある環境の特定の情報がそれらの生物の特定の行為を促すことを発見しています。たとえば、カエルは明暗に対して敏感で、頭上が一定の割合で暗くなると跳びはねます。これは天敵のカラスなどがきた際に“逃げる”というアクションを誘発しているわけです。

カエルはこのとき考えて飛ぶのではありません。行動として反応する状態にあるだけで、特定の明るさの変化情報が「飛ぶ」という逃げる行為を促すのです。そこには動物の行動が長い年月の中で、生き残るために蓄積してきた行動パターンの教訓が組込まれているといってよいでしょう。

そして、人間も同じように特定の外界の光や音といった感覚刺激の情報を受け取り、それを特定の行動パターンとして受け取めるようにできているといえます。従来の心理学では、このような外部刺激を単純な刺激反応として区分していましたが、アフォーダンスの視点はそれを環境側と動物の両者の相互作用の産物として理解した点に特徴があるのです。

人とモノを静止状態ではなく、アクションの中で捉える相互作用という発想は従来の心理学にない斬新なものだったといえるでしょう。

「直感」による認識

“直感“の心理とは?

直感は神秘的なものではないので分類してみましょう!
直感や第六感というと神秘的な力のように思うかもしれません。ですが、人の五感とは別にあるのではなく、その相互作用でトータルなものとして発生するものです。なにか忙しいときのほうが企画が出たりするのも、追い込まれたために脳が活性化されていると考えられます。そこで、ひっしゃ私は直感を次のように5つの特徴に整理して定義しなおしました。この分類は雑誌プレジデントにも特集に取りあげられ紹介されたものです。

①「直鑑」=名画の鑑賞眼等
②「直観」=長期的な見通しや観察による展望等
③「直勘」=技術者の発明・技能の閃き等
④「直喚」=緊急の危険本能等
⑤「直感」=感情の機微の察知等

①の「直鑑」は、絵や音楽など芸術的な作成を観察・聴いたりするときに、それが善い作品であることが瞬間的にわかるような場合です。 プロになればそうした芸術的な鑑賞眼を持つ力があると思われますが、それを人に説明するのは難しいものです。 なぜ善いのかは感じ取るしかない、といった世界かもしれません。
②の「直観」は優れた経営者のような長期的なビジョンや展望を持ち、戦略的な発想ができるといった場合です。これは未来を予測する観察眼と多様な観点からの知識が組み合わさったものと考えられます。
③の「直勘」は、技術者などの発明や技能の閃きに関するものです。アイデアを温める期間があって、つねに問題を解決するために考え、それがあるときふとリラックスした瞬間に一気に解決する。そんなときに働くものといえるでしょう。
④の「直喚」は危険を喚起とするというリスク意識、つまり、危ないと感じるときの第六感のようなことです。ナマズが地震の前兆のようなときに騒ぐといったことは昔から言われていますが、そうした危険を察知するような直感です。
⑤の「直感」は浮気を見抜く女性の感のようなことです。感情のわずかな動きを感知して、どんな変化の原因があるのかを推測する力といったところでしょう。この直感は明らかに女性のようが男性より優位にあるということは確かです。

 

■直感の心理をニーズ調査に応用する方法

実は直感といった内容はニーズ調査でも重視されるようになってきています。その典型的な理論と実践で知られるのがジェラルド・ザルトマンの「ZMET法」と呼ばれるものです。これは潜在的なニーズを認知科学と脳科学の成果から開発したもので、ハーバード大学の心脳研究所の調査方法ですので、少し紹介しましょう。

この手法は無意識を対象として初めてマーケティング調査にメタファー(比喩的)の認知科学を応用して成功したものです。従来から、革新的な商品コンセプトはニーズ調査からは生まれないとよくいわれます。これは「ウォークマン」や「写るんです」などはそのとおりです。

問題は潜在的なニーズを表に出させる方法にあります。そのまま消費者に欲しいものを聞いても意味がなく、むしろ「ニーズを顕在化する」という方法が必要だからです。そのために、ザルトマンらは、イメージやメタファーを使った消費者の潜在意識調査を行っています。

それをZMET(Zaltman Meta-phor Elicitation Technique)とよび、写真や動画などのイメージマップ的なものを作成し、その繋がりから購買動機など探るわけです。図の例は「ハイブリッドカー」に関する調査例で作成されたイメージのマップであり、これは「コンセサス・マップ」と称して、消費者の潜在心理を探り出していくというわけです。

 

認知科学による動画マーケティング(6)

■未来の在りたい先行経験「ゲーミフィケーション」の心理効果

ゲーミフィケーションはゲーム的な特徴をただビジネスに取り入れただけのものではありません。それだけであれば、その本来の可能性の半分にも満たないものになってしまいます。リアルの世界では作れない世界や行動を先取りして描き出して模擬的な世界を作り出すことによって、新しい消費欲求(動機)とその行動を生みだすようにすることが重要だからです。

この分野では、フライトシュミレーションが先行経験の先端技術で行われた基本モデルといえます。失敗しても危険はなく、リアルに近い経験をそこで得ることができるため何をどうすればよいかを学習できるものです。そのリアリティが実際の飛行でも役立つことは明らかです。そこから、商品を購入した顧客がどうそれを利用(消費)するか疑似体験化する場としてネット上の在り方を考えてみようというわけです。

そして、2005年ごろに登場したセカンドライフは、ある意味ではそのネット上の理想モデルをめざしていました。リンデンドルという貨幣のやり取りが話題にもなりましたが、その試みは実際のユーザのニーズに合わず一時のころに比べ随分トーンダウンになった感があります。

マーケティングの専門家にとっても、これを失敗とみるか、成功への途上における困難とみるかは意見の分かれるところです。企業にとっては高級なコンテンツを3D世界として見せる場ということでしたが、コストやコンテンツ作成の能力レベルで壁が高すぎた点など失敗要因とされています。

しかし、本質的なことはコスト上の問題以上に、ユーザ(消費者)が主人公となれて関与できる場ではなかったということでしょう。まだフェイスブックなども登場していなかったわけですが、コンテンツのクオリティは企業側で決めるものであって、どうインパクトのある「完成品」を提供できるようにするかが企業側の関心ごとであったのです。

結局のところ、ネット上の新しい場であっても、基本の考え方は従来のビジネスモデルである企業側のブランド戦略の延長であったのです。そこから、一歩出るためにはどうしてもソーシャルな関係性の構築が不可欠であったといえます。

人が人のコトバで未来を語り、当人がまだ経験していなかったことを他者の体験談として聞けるようになった。それは経験の一般的な交流という意味以上に、自己を超えた未来の経験記憶(心理学では「エピソード記憶」という)に働きかけるものです。そのエピソード記憶の意義はただ一般的な知識として理解する「意味記憶」と比較して、次のようなところにあります。

1)エピソード記憶は経験の具体的な文脈とつながっているため、その場との結びつきが強くなる
2)エピソード記憶は記憶に残りやすく永続的な形で感情とつながっている
3)エピソード記憶は人に語りやすい形であるため、口コミ効果を創りやすくなる

以上のことからすると、先行経験として試供品などを利用したりネット上でその使用経験など口コミを知る機会が増えることによってエピソード記憶がさらに増幅していきます。その結果としてブランドへの高い関心や購買意欲を創りだすという相乗効果がうまれるのです。

エピソード記憶は物語の形で時間と場所とつながって理解している状態です。想起される場合も、その時間と場所に影響されるため、同じ場所に来たりすると想い出としてよみがえったりします。クリスマスが誕生日などでもらった商品が忘れにくいだけでなく、その後の消費生活にも影響を与えるのはそうした理由によるものです。

 

認知科学による動画マーケティング(5)

■未来の在りたい姿を描くストーリーの意義

時間の認識は過去から現在そして未来へという流れが一般的です。経験を思い出す場合は大方がそうした時間順にしているわけで、だからこそFacebookなどの表示(タイムライン)がネット上の交流の記録として人気があるわけです。

ところが、そこに落とし穴もあることに気付いているでしょうか。過去から順にたどっていくことが一見自然であるようにみえても、それによって人は自分の過去の経験という認知の枠にとらわれやすくなります。過去の延長として未来をみてしまうからです。

そこで、逆に未来から現在そして過去の経験を見直すことが求められるようになってきます。それがソーシャルな時代のビジネス展開に不可欠なのです。これは過去から現在ではなく、未来を在りたい姿から現在をみてイメージできるようにすることです。そして、現在の自己の行動を振り返りそこにチャンスや可能性をみるといった新しい心理カウンセリングとしても注目されているメソッド「ソリューションフォーカス(Solution Focus)」という手法で知られるものです。

この方法は心の病(鬱や統合神経失調症)を治す短期療法で効果をあげ、その後ビジネス分野での能力開発にも応用されるようになりました。そのメソッドは、国内において筆者と東大の研究者らで、エリクソンメソッドとして90年代初めから学会を創設し普及をめざしてきましたが、それはネット時代においてソーシャル性とストーリー性の2つの関係性をつなぐものとして重要だと考えています。

その理由として、「試行の場」がストーリーによって創れるということがあります。 「試行の場」とは、観光地で温泉に入る前に駅の足湯のような簡易な場を提供することや商品の試供品を試すようなことです。つまり、サービスしたい内容・価値を模擬的な形で“試行経験”をしてもらうことがポイントなのです。そうした先行的な試行経験が人の思考・記憶・感情にどういった効果をもたらすでしょうか。
それがネット上で行われる先行経験、つまり、仮想の在りたい姿を「ゲーミフィケーション」の場として描くことが重要となってくるわけです。

認知科学による動画マーケティング(4)

■「ゲーム内化」タイプの「ゲーミフィケーション」の事例

「ゲーム内化」のタイプのゲーミフィケーション事例を検討すると、 これはゲーム自体の中に消費行動やビジネス価値となるルールなど取り入れていくものなので、出発点が「ゲーム在りき」だということです。

典型的なものは、パチンコはゲームですが、パチンコビジネスはその土台に当たる環境です。もし、パチンコをソーシャルゲーム的なものにしネット上で始めるとどうなるでしょうか。

そこには物理的な玉はないにしても、穴に入る仕掛けがあり、玉の入りによってインセンティブを与えることができます。それをポイントとして複数の提携したネットショップで商品と交換できるなら、それは「ゲーム内化」のタイプだといえます。 あるいは、ソーシャルゲームの場にビジネスとしての利用度を上げる仕掛けを作るなどの方法もあります。

たとえば、次の住宅建設の住友林業社の事例をみてみましょう。
※住友林業株式会社:http://sfc.jp/ie/quest/

このストーリーは冒険物語風のクイズに答えていけば宝物(ポイントなど)を得られるような「ゲーム内化」のタイプです。楽しそうな雰囲気で本格的なアニメキャラクターを作成している点でブランドイメージアップにはなっていると思われます。

その内容は住宅建設に関連した知識であり、クイズをしながら学習効果を生むというものです。子供受けするような外見イメージですが、クイズ内容は大人向けというところであり、クイズ好きの若い女性などに向いているかもしれません。

ただし、この当たりの顧客イメージは明確ではないところがあり、この知識を持ってほしい顧客層とこのゲームがマッチしているかどうか問題となります。ちょっとしたお遊びとして親しんでもらうことをねらいかもしれませんが、リーチしたい顧客イメージを「ペルソナ法」などを使って明確にしておく必要があります。

認知科学による動画マーケティング(3)

■「ゲーミフィケーション」の2つの意味

ゲームによって感動や喜びを創るノウハウをあらゆるビジネス領域に応用しようとするメソッドが「ゲーミフィケーション」と称して注目されるようになってきています。 消費者(顧客)にいかに新しい消費経験の価値を与えるかは今やサービス重視の戦略の柱だからです。

その新しい経験価値としての「ゲーミフィケーション」は、次の2つのタイプに分類しておくことが重要だと私は考えています。

1)一般的な消費者の行動や購買ルールについて、ゲームを用いて「ゲーム外化」するもの
2)ゲーム行動の領域の中に消費者の行動を取り込んで「ゲーム内化」するもの

この2つは結果が同じようなゲーム的要素を持つとしても、その発生の仕方が逆方向であるものです。 以下にこの2つの仮説モデルを使って事例分析をしてみましょう。

「ゲーム外化」という場合の“外化”という意味は、最初に「ゲーム在りき」ではなくて、サービスや商品を売る仕組みがあって、それを軸にしながら「ゲーム的経験」を創っていくものです。
これが一般的な「ゲーミフィケーション」であり、いかにして通常の購買や消費サービスの中にゲーム機能を取り入れた経験を創るのか、ということが課題となります。ランク付けやポイント制などのゲーム機能を通常の消費行動に追加していくイメージです。

たとえば、「フォースクエア」と呼ばれる観光地でのGPS情報を利用した宝探しゲームがあります。商店街などで単に個別のブランドをアピールしても 買う動機にはつながりません。そこで、「宝探し」というゲームとして各商店の商品をモバイルで探し出し、競わせることで新たな発見や競争の楽しみを与える ことができるのです。

ゲーム自体は既存の宝探しというルールに沿うものですが、その場所が観光地であり、モノが商店街の商品となるならビジネス価値が発生するわけです。ただし、ここで何が顧客にとっての価値となるか、マーケティングとして仮説検証する必要があります。

同じような商品であっても、ゲームの場でより活きるような商品もあれば、無意味なものもあります。その比較や前提の検証といったことがマーケティングとして行われなければ、せっかくのフォースクエア利用もただの遊びと化してしまうのです。

フォースクエアには、ネットとリアルの場との連携が不可欠になる要素が豊富にあり、その意味では時間と空間(地理)の情報を紐付けしたビジネスモデルの宝庫ともなるものです。